第18章 人の生
泣いた涙を拭ってやらない
そんな優しさもあるんだなと、ラビは知る。
「すみれさん、アジア支部に残ったりしないですよね…」
「は?!無いさ!絶対にないない!!」
そんなことあってたまるか!!
ラビは青ざめた顔で全力で否定をする。そんなラビを見て「何か言えって言ったのは君でしょう」とダグは面倒臭そうな顔をした。
「だって、あんなすみれさん見たことない」
「………そんなことねーさ?!」
自惚れていた
自分が一番だろうって
(支部長はきっと、オレの知らないすみれを知っている)
すみれと支部長を見ていれば嫌でも分かる。2人の信頼の厚さ、そしてすみれが支部長を心から慕っていることを。
「…何さ、支部長の奴」
普段は皆にイジられて、ぎゃーぎゃーと騒がしいくせに。よくフォーにからかわれているし、興奮するとすぐ蕁麻が疹出るし、極度のリナリーのファンですみれにもドン引きされていたのに。ここぞという時はあんな…
「大人の余裕、っていうのかな」
ダグがぽつりと呟いた。
今の俺には持ち得ない、包容力、年の功、余裕。それは大人だからこそ手に入れられるものなのだろうか。それならば…
「…早く大人になりてぇな」
「…」
「お前もそー思わねぇ?ダグ」
「…」
ダグに話しかけても返事がない。
こんな至近距離で会話をしているのに聞こえないはずがない。ダグは身動きひとつせずすみれをじっと見つめていた。
その視線は物事をただ眺めているだけではないとラビは気づく。
何故なら自分もすみれに向ける、好意の視線と同じだったから…
(…面白くねぇさ)
「……童顔」
「童っ…?!」
「ちんちくりん」
「調子者のフリした無関心ヤロウ」
「へぇ、オレの事そう思ってたん?つか無視すんじゃねーさ!」
「何で僕が君の独り言に返事をしなきゃいけないんだっ!」
ラビとダグは言い合いから取っ組み合いになるも、身を潜めているため音を立てずにヒソヒソと掴み合う。
ダグは顔を腕で擦りながら、今度ははっきりと告げる。
「やっぱり君が嫌いだよ、ラビ!」
「な"っ…?!」