第18章 人の生
―――――否。
このまま消えてしまえたらいいのにと、何度願ったことだろう。
しかし黒の教団に所属する時間が経てば経つほど、そのように考える頻度は減っていった。
「一生懸命償おうとしているのはわかる。
―――しかし。
死して償うのと、死んでも償うのは意味が違うぞ」
「…そ、それは」
どうゆう意味ですか?と言葉を発する前にバクが話す。
「君が罪を犯したと思っているのならば、今はそれを罪と呼ぼう。
君が…、すみれが。罪を犯したのなら、それは消えない」
「っ」
「しかし、君が黒の教団でやってきたことも、決して消えないんだ」
「やって、きたこと?」
「誰かのために、身を粉にして働いてきただろう?」
(本当に自分のため?
いや、違う。私は……)
自分のために働いてきた
此処、黒の教団に居たくて
みんなの側にいたくて
結局は自分のためだ
「そんなこと」
ありませんよ、と言い切る前に頭をポンポンと撫でられる。
「本当か?」
「!」
「本当に、何もないのか?」
「…っ、」
頭を撫でられる手から、バクのあたたかさが伝う。
すみれと目が合うとバクは柔らかく優しい笑みを浮かべた。眉尻を下げて笑うバクはやはり何処か寂し気で、すみれは目が離せなかった。
「――――すみれ、
君の幸せを、心から願っているぞ」
「…ッ」
ありがとう、と。
言いたくて、言えない。
だけど嬉しくて、気持ちがどうしようもなく込み上げてくる。
「…っ、バク支部ちょ…!」
震える唇で、かろうじて言えた言葉だった。泣いてることなんてきっとバレているだろう。しかし涙を見せたくないすみれは深く俯きお茶を飲むフリをした。
バクは何も言わずに微笑んでいるだけだった。
そんな2人をこっそり盗み見る影が、ふたつ。
「……やっぱ、年上の魅力ってやつ?」
「……」
余裕ぶってそんなことをラビは言ってみるものの、否定をしてほしくて「なんか言えさ、ダグ」と彼の頭をコツンと軽く小突いた。