第18章 人の生
「バク支部長っ…
会いたかった、です」
すみれはラビと繋いでいた手をスッと離す。
いとも簡単に手を離されてしまった事にラビは呆気にとられる。呆気に取られた一瞬のうちに、すみれはバクの胸に顔を埋め両手は彼の服をぎゅっと握りしめた。
その光景にラビは思考が真っ白になった。
「相変わらずだな、君は」
バクはすみれの言動に微塵も動じず、慣れた様子で彼女の頭を優しく撫でた。
バクの撫でる手を懐かしむように、または甘えるように。頭を撫でやすいように傾けるすみれは目元と頬をほんのりと染め、嬉し涙を滲ませた。
* * *
「………はあ」
あのすみれは誰なんだろうか。
いや、紛れもなく彼女だった。
しかしラビが知るすみれは人に甘えるという行為をしない。そして人の好意を素直に受け止めない。謙遜して遠慮して、自分を表現をしないし表に出そうとしない。
まあ、それはすみれが黒の教団に身を置く経緯からそうなってしまったのだが。そんなすみれが気持ちを曝け出し、身を委ねた。
ましてや頬を赤らめ、とても親しげ…どころか、あれはまるで恋人同士の再会ではないか。
(…オレとの再会の時でさえ、ハグなんてなかったさ
今思えばかなり運命的?感動的?な、再会だったと思うけどなー)
誰よりもすみれを理解していると思っていた。黒の教団に来る前のすみれを知ってるのは自分だけだろうし、任務がなければよく一緒に過ごしている。……すなわち科学班に度々遊びに行ってるということだ。
(なんなら最近のオレ等、めっちゃ仲良かったよな?ここ最近は喧嘩っぽくなっちまったけど!)
すみれの笑顔も貴族令嬢だった頃の素の感じに戻ってきたし?戯れ合うのだって俺が一方的だけどさせてくれるし?肌が触れ合うことだって嫌悪されてない………ない、はずだ。と、ラビは悶々とした。
むしろオレ等って良い感じなんじゃね?!と思う場面なんていくらでもあったのだ。
嗚呼、オレはやっぱりすみれが好きで。多分すみれも……と、確信に近いものを感じていた、そんな矢先にコレだ。
(そんなに支部長がいーのか?)