第18章 人の生
鎌は槍の柄を切り裂き、ラビの右肩から左胸にかけて大きくザックリと肉を断つ………
「…、…ッゲホ」
「ラ…ッ、ラビーーーー!!!!」
ラビは声を失い、崩れ落ちるよう跪く。ラビがこれ以上倒れぬようダグは彼の両肩を支えた。ダグは目にいっぱいの涙をためた。
「…っへ、オレもここまで………」
「ここまでか」と、そう言いかけた時。ラビはとある違和感に気づく。
「ん?」
「?、…ラビ…ッ?」
涙をボロボロと流すダグを他所に、ラビは自身の肩や胸をペタペタと触る。どこも傷一つ、いや汚れ一つ付いてはいなかった。
「ふぁ〜あ!
眠くて実体化できなくなってきた」
「「…は?!」」
「半日はやってたし、少し休もうぜ」
呆然とする二人に見向きもせず、天井まで届く巨大な扉へと吸い込まれるようにフォーは消えていった。「ふあぁぁぁ〜〜〜〜」と彼女の大きな欠伸の余韻だけが残った。
「「……」」
「…フォーが眠くなかったら、オレ、死んでたってコト…?」
「…そう、考えたくは、ないですが…」
「「……」」
ラビとダグは無言で互いの顔を見合わす。どうやら思うことは同じようだ。
「ふへ〜〜〜〜っ」
「はあ〜〜〜〜っ」
二人で大きな溜息を吐き出し、広間で倒れ込む。嗚呼、やっと拷問のような稽古から開放された。そもそも任務遂行のためにアジア支部まで来ているのに、いつまでこんなことをしなければならないのか……
「……早く、終わんねーかな」
「…何がですか」
「んー、任務?」
「なんで疑問形……」
「早く終わって欲しーじゃん」
「すみれさん…科学班、次第でしょうね」
“すみれ”という言葉に、ラビは不自然に身体がピクリと反応する。
「あーあ、ホント早く終わんねーかな」
ラビは最後に見たすみれの姿を思い出していた。
* * *
アジア支部に到着し、本部とは異なる建築物や雰囲気を堪能する間もなく声に遮られる。
「ようこそ、アジア支部へ」
声がする方へ、ラビ達は振り返った。
その声に誰よりも反応したのが―――――、
「バ……バク支部長っ!!」
すみれであり、一目見るやいなやバグに抱きついた。