第18章 人の生
――――カンカン、ガッ カキーン
金属同士が激しく打つかり合う音が、薄暗く広大な広間に響き渡る。
広間には宗教的な崇高さを感じる巨大な扉があり、響き渡る金属音はこの場にはそぐわない。
その音の原因は……
「ちっ…くしょ!」
ラビは打撲した頬を手の甲で擦る。よろける身体を刀剣で支え、荒い呼吸を整える。
「オイオイ、もう休憩かあ?!
あたしには掠り傷すらついちゃあいないぜ?」
ラビに挑発を促し、彼の目の前で仁王立ちする少女がいる。
「っ可愛い顔して強いんさね、フォーは」
彼女の名はフォー。
一見小柄な中華美人の少女にみえるが、黒の教団アジア支部の守り神である。アジア支部長の曾祖が作った守り神の結晶体だ。アジア支部設立時に誕生しておりなんと年齢は100歳くらいだ。
「あたしは此処、アジア支部を守る戦士だからな!」
「うおっ!?あっぶねー!」
フォーは両腕を鋭い鎌に変形しラビに襲いかかる。ラビは素早くフォーの鎌を避け、手にしている刀剣で防ぐ。ギリギリギリと金属同士が擦れ合い火花を散らした。
こんなにも華奢な少女の、一体どこからこのような腕力が出るのだろう。やはり只の人間ではないことを思い知らされる。
先程から広間に響き渡る金属音は彼等が剣を交え合っていたためだった。
「相変わらずだな」
「へ?」
“相変わらず”と言われる程、月日など経っていない関係だ。剣を交えながらフォーの言葉に疑問符を浮かべていると、
「すみれだよ、すみれ。
相変わらず辛気臭ぇな」
「………は?」
ラビの中で何かがプツッと切れる音がした。
「本部でもあんななのか?」
「……と、……ね…」
「ん?」
「…すみれのコト、悪く言うんじゃねえ」
ラビは自分自身でも驚くくらい怒りのボルテージが上がっていくのが分かった。
「本当のことだろ」
「ちげーさッ!!」
本当のすみれは誰よりも前向で、努力家だ。思いやりがあって、周りを明るくする華やかさがある。
そう、そんなすみれは誰よりも優しくて。
可愛らしくて、
――――――大切、で。
「隙きあり」
フォーが呟いた瞬間、ラビは蹴飛ばされていた。