第18章 人の生
握られた手から、ラビがとても心配してくれている気持ちが痛い程伝わる。
(……本当は、気づいていた)
ラビがずっと私を気にかけてくれていたことに。私と気まずい雰囲気でありながらも汽車の個室を出ていくことはなかったし、素っ気ない私に態度を変えることもなかった。
いつまでも過ぎた事ばかり気にして、これでは駄々をこねる幼子と同じではないか。
ラビだって私を貶めたくてあんなことを言ったんじゃない。私を案じて言ってくれたのだ。
(私が、悪かったのかな…)
だからといって私の罪に対する想いは変わらないし、これからも償わなければならない。それでも今は……
「……ラビ、ありがとね」
「!、お、おう」
ラビが心配してくれている事を蔑ろにしてはいけない。
(この任務中に、仲直りできるといいな…)
「アジア支部に着いたし…もう大丈夫。心配かけてごめんね」
「…フラついてんさ。俺の腕にまだ掴まっとけって」
「ありがとね、後でちゃんと休むよ」
二人で階段を登っていく。
その姿に微笑ましく思うジジと、口を真横に固く結ぶダグがいた。
「入口、前と比べて増えてんじゃねーかな」
「あ、ジジもやっぱりそう思う?」
今も拡大し続けてんだろーなと、ジジは無精髭を触りながら薄暗い周囲を観察する。
「二人は来たことあるんさ?」
「俺らアジア支部出身だもんな!」
「うん」
「そっか。すみれはちょびっとだけアジア支部に居たんだよなー」
「アジア支部すげーからな!着いたら驚くぞー」
「皆さん、扉を開けますよ」
洞窟の階段を登り切るとアジア支部への入口である、重厚感のある大きな扉が現れた。ダグが取手を回しギギギィ…とゆっくりと開ける。扉から漏れる光が眩しくて全員が目を細めた。
「はぁーーー…めっちゃ広っ!!!」
とても地下施設とは思えない。
全貌を見るためにラビは天を仰いだ。
黒の教団本部とはまた異なる広大な建築物。中国文化特有の模様や柄が壁や格子に施され、此処が異国の地であることを思わされる。綺羅びやかさはないが、簡素な造りが荘厳さを作り出していた。
「ようこそ、アジア支部へ」
声がする方へ、ラビ達は振り返った。
その声に誰よりも反応したのが―――――。