第18章 人の生
コムイは意味ありげに、けれど優しく。呆けてるすみれにニッコリと笑みを作る。
「…と言う訳で、ジジが出発するのは3日後!」
「3日…?3日後?!引き継ぎは?!」
「申し訳ないけど汽車の中でしてほしい!」
「ジジの仕事の引継って、他に誰が…?!」
「ほぼすみれちゃんだね!」
「ひえッ」
「よぉぉぉしっ!!すみれ!!今夜と明日は俺の送別会だぜ!!」
「えっ?!違うでしょ!まずは引継でしょ?!」
ジジはすみれの首に腕を回しズルズルと引きずって室長室を後にした。
そんな様子を「相変わらず忙しないさね」とラビが茶化すように笑って見送るも、何処か寂し気だった事に気づいたのはコムイだけだった。
* * *
そして今に至る。
ジジは新たに配属されたため、ラビは保護されたイノセンスの回収のためアジア支部へ。すみれはジジの仕事を引継ぐため、ダグは任務のサポートやアジア支部へ道案内のため同行する。
すみれ達一行は地下水路を船で渡っている。
本部と同様に洞窟を元に作られているため、水路には沢山の鍾乳洞が存在した。灯火は所々にぽつんぽつんと最低限の数が灯されているだけであった。
船着場に着くと、そこには幾つものアジア支部への入口が存在した。
「船を降りたら僕に着いてきて下さい。
迷路のように入り組んだ地下施設なので、迷ったら大変です…て、すみれさん?!」
「おっと、わっ」
船から降りようと立ち上がると、立ち眩みした。船から降りる際、振動により水面には波が立ってしまう。そのためすみれの足場はより不安定になった。
フラつくすみれの肩を誰かががしっと掴む。
「だいじょーぶさ?」
「ラビ、っ!」
「ほら、手。掴まれって」
「いや、へいき…わ!?」
すみれが返事を終える前に、ラビはすみれを船着場へグイッと引き上げた。
(う"、足がふらつく…っ)
ラビに手を引かれた反動ですみれはそのまま彼にもたれ掛かってしまった。
「ごめ…!すぐ退くからっ」
「移動中、ずっと仕事してたもんな。疲れてんだろ?無理すんなって」
「う、…ん」
ラビはすみれの手をしっかり握るものの、どこか遠慮がちだった。