第18章 人の生
* * *
『いつまで、そーやって悲劇のヒロインぶる?』
『オレに関係ねぇーけど』
ラビから放たれた言葉が、ナイフのように胸に突き刺さって抜けない。すみれの頭中はその言葉がいつまでも木霊していた。
まるで失恋したような喪失感と、自分の存在を否定されたような被拒絶感に支配されている。しかし否応無しに訪れる日常はそんな感傷に浸らせてはくれない。
コムイ主催のクリスマスパーティーは多少のトラブルはあったものの奇跡的に無事幕を閉じた。
あの日から、すみれはラビと口を利いていない。いつもなら周囲から「痴話喧嘩?笑」なんてからかわれるがそれどころではなかった。
「ジジが移動…?」
「正しくは左遷だね、アジア支部に」
「ったく、上層部の奴らめ!
言うこと聞かねえ奴は遠くに飛ばしちまえってこった」
床一面に書類で覆われた室長室に呼ばれたすみれはコムイとジジから衝撃的な人事異動を知らされていた。
「この間、中央庁と喧嘩したのが効いちまったな」
「何でジジだけなの…!?それなら部下の私だって…ッ」
「いつもドンパチしてたのは俺だけだったろ?そんな中いつもフォローしてくれて助かったぜ」
そう言ってジジはすみれの頭をポンポンと撫で「ありがとなぁ」と言った。
(…やめてよ、まるでサヨナラみたいじゃない…!)
ジジはなんでもない事のように言う。
しかしそれがすみれの胸をさらにキツくさせた。彼女の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
この涙は。
ジジがいなくなる寂しさ。非力な自分の不甲斐なさ。自分が左遷されれば良かったのにという思いと同時に、本部に残れることに少しでも安心してしまった自己嫌悪、だ。
…私は何故、本部に残れる事にこんなにも安心してしまったんだろう?自分の心に問うも今はそれどころではなかった。
「すみれ、悪かったなあ。いつも負担かけてよお」
「ッ、そんなことないっ!私こそ、力になれなくて…」
「すみれちゃん、違うよ。
僕がジジにばかり負担をかけた。…ジジ、申し訳ない…ッ!」
「コムイまでそんな顔すんじゃねーよ!すみれまで飛ばされなくて俺は安心したぜ」
「…すみれちゃんまで飛ばされなかったのは不幸中の幸いだった」