第18章 人の生
正直、驚いた。
出会ってすぐに打ち解け、円滑な人間関係の築き方なんて朝飯前だ。処世術は叩き込まれてきたし、しっかり身に付けてきた。
だから、こんな―――心の奥底を見透かされたような事を、出会ってすぐに言われるなんて。
(ただ嫌われてるだけならまだしも……スッゲェやり辛ぇさ)
ふと、ラビは手にしていた本から顔をあげるとパチッとすみれと目が合う。
「(…酷ぇ顔。やっと目の隈が治ったと思ったのに。)すみれ、次の」
「…ッ、あ、ねえ、ダグ!」
次の移動中には少し安めよ、と言いかけるもすみれはラビからパッと目を逸らし声掛けにも気づかないふりをした。
ラビの気が滅入る最もな原因その3、すみれ。すみれとラビの雰囲気は、あのクリスマスパーティーからずっとこの調子だった。
(オレが悪かったのか?)
いや、オレは間違った事なんて言っていない。いつまでも自分自身を苦しめるすみれを見ていられなかったから。幸せになって欲しいから。
でも、いつまでもすみれとの関係がこのままだったら?
もしそうなってしまったらと思うと居た堪れなくて「やっぱ言わなきゃ良かったさ」と後悔するラビであった。
(……ラビ、全然普通だなあ)
普段と何ら変わらないラビを見て「気にしているのは私だけ」と思うすみれ。
それならば自分もいつも通りにラビと接すれば良いだけの事。しかし、ラビを見るとどうしてもクリスマスパーティーの事を思い出してしまい、平常心では居られなくなってしまう。
「汽車を降りますよ!もう着いているはずです
―――アジア支部行きの船が。」
ダグの明るい声や笑顔でもこの気持ちは晴れてくれそうにない。
そんな気持ちを引きずったまま、すみれは黒の教団アジア支部へ向かうため、汽車を降り船に乗り込んだ。