第18章 人の生
ガタンゴトン ガタンゴトン
汽車の窓から景色を覗くのが好きだ。
あっという間に移り変わっていく様子は見ていて飽きない。飽きない、のだが…
「ふぁ〜あっ…座り疲れたさー」
ラビは「ケツが痛ぇ」とぼやき、大きな欠伸と共に涙をこぼす。何日も何日も汽車を乗り継ぎ、ガタゴトと揺られ続くと流石に身体も辛くなってくる。
「いやー職業柄、こうゆう旅っつーか。
…移動には慣れてんだけど、流石に気が滅入るさ」
ラビは遠慮なく気が滅入る原因その1の、2人を見やる。
「ジジ!ここの業務なんだけど…っ!」
「そこはリーバーとやってたやつだ!
それよりすみれ、お前ぇはこっちだ!」
「えぇ?!そんな話聞いてないよっ?!」
「今言ったからな!!」
「……」
黒の教団本部を出発してから二人はずっとこの調子だ。すみれとジジは汽車の移動中に仕事をし続けている。しかも時間が足りないため睡眠時間はいつもより遥かに少ない。
ラビ達が居る個室の扉が大きな音を立ててガララッと開くも、2人の仕事が遮られることはなかった。
「そろそろ汽車降りますよ…って、うわ?!」
「ん、ダグ?どうしたの?」
「すみれさんっ、どうしたのって…!
個室が書類まみれじゃないですか!」
個室に入ってきた“ダグ”と呼ばれる青年は白い団服に身を包む探索部隊の人間だ。ダグはラビとすみれとジジの任務をサポートするために同行する。
彼は「もうすぐ降りますから、片付けましょう」とすみれとジジと一緒に乱雑に散らかった書類を拾い集める。
「オレも手伝うさー」
「…すみれさん、これで全部ですか?」
「あっ、うん。ありがと、ダグ」
「……(無視かい!)」
気が滅入る原因その2、ダグ。
出会い頭に言われた言葉をラビは思い出す。
『君の目はガラス玉みたいだね。
僕を映しているけど、それは反射しているだけで、中には何も届かない』
『―――は?』
まだろくに会話どころか、「ラビっす、初めまして」と自己紹介し握手を求めた直後に言われた。
……ちなみに差し出した手を握られることはなかった。