第17章 想い思われ反発して
半ば自棄糞に大声で叫んだ。
「伸!
伸伸伸伸伸伸ーーーーんッ!!!!」
早く、早く離れなければ。
クリスマスパーティーの喧騒が聞こえないところへ。オレの姿が誰にも見られない場所へ。
鉄槌の柄に乗ってギュンッと空高く昇っていく。
そうしないと、惨めさとか寂しさとか。普段押し殺している感情でぐちゃぐちゃになってしまいそうだから。
「…通りで、寒いわけだ」
灯りのない暗闇に独り。
視界は奪われているものの、肌にふわっと触れれば溶けて消えていく、冷たい感触。
雪だ。
「―――オレは、ブックマンを継ぐ者」
自身の赤い髪をかきあげ、眼帯をしていない左目をゆっくりと閉じる。薄ぼんやり見えていた黒の教団の灯りさえ絶ち、漆黒の世界で自分自身に重々しく問いかけた。
自分が何者であるのか、そしてブックマンとなる者の掟とは何か。
こんこんと雪が降る寒空の中、身体の芯まで冷えようとも気持ちの昂りが納まるまで自問自答をし続けた。
*
「あ"ーーーー…
さ"み"〜〜〜ッ!!」
頭を冷やし終えた(ついでに身体も心底冷えた)頃、食堂に戻ってみればクリスマスパーティーは終盤に差し掛かっていた。
キリストの降誕を祝う者なんて誰一人居るはずもなく、いつも通りの飲み会と化していた。
空いた食器と屍と化した参加者達があちこちと床に散らかっていたり、横たわっていたり。それらを踏まぬよう「ほいっ」と跨いで避ける。
すると食堂の奥の方のテーブルに科学班員達がたくさん横たわっている。その中に…
(おっ、すみれ!)
彼女はひとり、酒をちびりちびりと嗜んでいた。
(酔いも冷めて元気そうだな)
少し睡眠が取れたおかげか、心做しかスッキリした顔をしている。オレは胸の奥で「良かった」と思わず安諸する。
(…もう大丈夫だ)
すみれを見ても感情が昂ぶらないし、自身の気持ちに振り回されるようなことも無さそうだ。
(それでも、やっぱり
すみれの傍に居たい)
「…今日くらい、楽しんだっていーだろ」
折角のクリスマスパーティーだ。
好きな女と酒呑んで飯食って、会話する。
たったそれだけ
そんな小さな喜びを噛み締めるくらい、許されてもいいだろ?