第14章 距離
このままなんて、嫌だ。
せっかく会えたのに。黒の教団に所属する仲間になれたのに。こんな胸の奥がつっかえたままなんて嫌だ。
すみれは一人酒をしているラビのもとへフラフラとした足取りで向かう。
お酒の力を借りないと行動できないなんて、なんて情けないんだろう。だけど、行動できないでいる方がもっと情けないと思う。
ーーーーーだから、
「ねえ」
「…何さ?」
勇気を振り絞り声をかける。しかし、ラビはすみれと目を合わせようとしなかった。
「なんで、怒ってるの?」
「!、…怒ってないさ」
「じゃあなんで、私のこと避けるの?」
「別に、避けてなんか…」
「じゃあ…っ!!」
すみれはラビに向かって両手を伸ばし、
「ちゃんとこっち見てっ!」
ラビの両頬を力一杯挟み込んだ。
「へぁ?!」
すみれによってラビの顔は縦に押し潰され、口はまるでアヒルの口だ。
「ちょ、なにふん"…ッ?!」
「うるさいっ!!」
「!」
普段のすみれからは見られない言動にラビは驚き、思わず彼女を見る。そこには今にも泣き出しそうな顔のすみれがいた。
この時になってやっとすみれとちゃんと目を合わせていなかった事に気づいた。
「これから一緒に過ごす仲間なの!…仕事なの!コミュニケーションとらなきゃいけないの!わかる!?
ーーー以前みたいに、なんて言わない。
私のことは嫌いでもなんでもいいからっ…!」
普通に 接してほしい
「そんなんじゃないさ!!そんなんじゃ…っ」
ラビの頬からすみれの手がスッと離れようとした。しかし、その手が離れる前にラビが力強くギュッと掴む。
不意に後ずさりしようとしたすみれを逃さぬよう、ラビは自分の方へ引き寄せた。
「そうゆう、すみれこそ…」
「えっ?」
「すみれこそ、呼べよ。ちゃんと」
「な、なにを?」
「“ラビ”って」
「!!」
「俺の名前、まだ1度も呼んでないさ」
「だって…!」
「何?」
今度はすみれがラビから目線を外し、気まずそうに下を向く。
確かに“ラビ”と呼ぶように言われたが、それは遠回しの“拒絶”であると感じていた。