第14章 距離
フロア・ティエドール
“元帥”と呼ばれるエクソシストの上位階級者だ。きっとブックマンについて話を聞いているだろう。
「じゃあ、私はマー君と報告書を出しに行ってくるからね。ちゃんと挨拶しなさいよ、ユー君」
「ぁあ"?!」
ティエドール元帥は「バイバイ〜!」と手を大きく振りながら、ラビと“ユー君”と呼ばれていたアジア系男子をその場に残して行った。
「…」
「名前、なんて言うさ?」
とりあえず、挨拶だけしておこう。
面倒臭い。今はすみれの事もあり、早くこの場を立ち去りたかった。
「あ?」
「じゃあ、年は?同じくらいさね!」
得意のポーカーフェイスでヘラッと笑ってみせる。ラビの笑顔を見て、アジア系男子は女さながらな美形を歪めた。
「知るかよ。ヘラヘラしやがって、気持ち悪ィ」
「酷ぇさ〜!」
「お前、さっきまで殺気立ってたじゃねーか」
「…は?」
「あんなヒョロっちいすみれを抱きとめられねーんじゃ、エクソシストやってけんのかよ」
「!」
「あいつ、泣かせると面倒くせぇんだよ」と美しい黒い長髪をなびかせながら、ラビの横を過ぎ去ろうとする。
(ふーん?)
自分の方が、すみれの事知ってるとでも言いたいんさ?
全然面白くない
面白くねェ
「じゃ、色々教えてさ?
ユー君♪」
「……あ"?」
神田の美しい切れ長の目が、雷に打たれたかの如くカッと見開く。
「どしたん?」
「今、なんつった?」
「だから、ユー君」
「…ヤメロ」
「(お、地雷か?)じゃあ、名前おせーて?俺、ラビさ」
「はっ、言うかよ」
「じゃあ、ユー君さ」
「…チッ、神田だ」
「それじゃヨロシク!ユー君♡」
「俺のファーストネームを呼ぶんじゃねぇッ!」
神田の見開かれた目は血走り、額には怒りにより血管が浮き出ている。
え、なになに?
ファーストネーム呼ぶだけでこんなに良い反応すんの?コイツ、面白ぇーんだけど 笑
「元帥には“ユー君”って言われてたじゃんか!愛されてるさね、ユー君♡」
「ふっっっざけんな、テメェーーーー!!!」
ドンガラガッシャーーーーンッ
神田の堪忍袋の緒が切れ「六幻…ッ」と食堂で抜刀した所を、リナリーやすみれ達が慌てて仲裁したのは言うまでもない。