第14章 距離
引き止めるすみれの声が聞こえるも、ラビは振り返ることができなかった。
「なんで…っ」
何故、すみれの手を払い退けてしまったんだろう。
すみれの傷ついた顔が、ラビの脳裏を過る。
(…俺も何でっ、すみれから貰ったマフラーなんて着けちまったんさッ)
こうなる事なんて、簡単に予想できたはずだ。
すみれが気づくかもしれない事を失念するほど、このマフラーを着用する事は日常化していた。
「このジュクジュクの未熟者め」と、師であるブックマンの幻聴が聞こえてきそうだ。
(ーーーあの頃、このマフラーを貰った頃。俺はすみれが好きだった)
すみれから大切なモノを沢山貰った。
すみれと幸せな日々、ブックマンとしての決意ーーーーこのマフラーは今も大事にしている、唯一の品だ。
(そう、俺が大事にしていたのは“あの頃”のすみれとの日々であって…)
“今”の、すみれではない。
罪を償うために黒の教団に属した今のすみれの様子は、まんざらでもない。しかし、やっぱりココではない何処かで暮らしていて欲しかった。
そんな事を思う反面、再会できた嬉しさを持ち合わせる自分もいる。
月日が過ぎ2年経った今も、風化してくれない想いと相変わらず未熟な自分に嫌気が差す。
(ホント、俺って…昔も今も、格好がつかないさ)
マフラーに顔をうずめ、ギュッと握る。
そんな事を考えながら、食堂の出入口付近まで足を運ぶーーーーーー
「ユー君」
「その呼び方辞めてクダサイ」
「諦めろ、神田。師匠はそうゆう人だ」
「帰ってきた時くらい甘えなさい、ユー君」
「てンめ…ッ」
「…何なんさ?」
先程の哀愁は何処へいってしまったのか。怒りオーラと穏やかオーラのぶつかり合いの気迫に呆気を取られ、ラビは思わず足を止める。
食堂の出入口ど真ん中で、今にも一発触発な空気を醸し出している(のは一人だけである)三人組がいる。
その内の一人がラビに気づき声をかけた。
「おや?君は数日前に入団した…」
「…………ラビっス、初メマシテ」
「ブックマンJrだね。私はフロア・ティエドールだ、よろしく」
フランス人の中年男性は、ポカンとしているラビに微笑んだ。