第14章 距離
すみれは先程の渦巻く感情はすっかり抜け落ち、今は出来上がった団服の最終確認に精を出している。
「…………へぇ」
だから、ラビがどんな表情で、どんな目ですみれを見ていたのか。すみれはこれっぽっちも気づきもしなかった。
すみれは一通りラビの団服の確認を終え、ほっと一息つく。
「うんうん!大丈夫そうだねっ」
「サンキュー」
(それにしても…)
ラビは既に団服をお洒落に着こなしている。新調されたバンダナと団服に合うイヤリング、そしてモノトーン調に合わせた白いマフラーを身に着けていた。
「あ、マフラー解れてるとこあるよ」
「えっ、マジか!」
「直してあげる。ちょっと見せーーー」
よく見ると、このマフラーは年季が入ってそうだ。フリンジが元々付いていたであろう部分が見て取れる。
ーーーーそして、この網目や手触り。きっと手編みのマフラーだ。
(…あれ?)
この編み方、毛糸の継ぎ足し方、留め方はーーーー私のやり方と、似てる…?
というか、同じやり方だ。
(え、こんな事って、ある?)
こんな偶然、あるだろうか。
すみれは以前、黒の教団に訪れる前、ディックに手編みのマフラーをプレゼントしていた。
フリンジの付いた白いマフラーを。
(もしかして、私が編んだマフラーじゃ……?!)
あれから2年経つけど、ずっと使ってくれていたの?
フリンジも全て取れ所々解れ、年季が入り、決して綺麗とは言えなくなったボロボロのマフラーを。
今もこうして使ってくれている。
じんわりと目頭が熱くなる。
私に対するラビの考えが、気持ちがわからない。
拒絶されたかと思えば、助けてくれて。心配してくれたかと思えば、突き放される。
どうして、今もこのマフラーを使ってくれているの?
「ねえ、このマフラーって…」
「っ、使い勝手が、いいだけさッ」
笑顔だったラビはポーカーフェイスを崩し、マフラーに触れているすみれの手をパシッと強く払いのける。
「痛っ」
「あ、悪ィ…ッ!、ーーーっ!」
「ね、ねぇ!待って…!」
ラビはバツが悪そうな顔をするも、すぐにすみれから顔を背ける。
すみれが静止を求める声で足を一瞬止めるも、返事をせず食堂の出入口へ向かってしまった。