第14章 距離
あれから更に数日が経ち、今日はラビとブックマンの歓迎会である。
すみれはリナリーとジェリーに頼まれ、歓迎会の準備を手伝っている。
「すみれ!そっちのリース足りるー?」
「足りるよリナリー!大丈夫!」
「リナリー!すみれ!そっち終わったら、厨房来てくれないかしら〜?」
「「はーい!」」
仕事を抜けての手伝いになるため、ジョニーやタップ達からブーイングが飛んだ。しかし、歓迎会の手伝いにいくよう室長(もちろん、リーバー班長)のお墨付きであり仕方なしのため、皆すぐ口を噤んだ。
…本音のところ、仕事を抜けられて嬉しいのは皆に内緒である。
「うふふ、やっぱ準備は女手が必要よぉ!」
「ジェリーさん、私がいなくても良かったんじゃない?」
「何言ってんのよっ!こーゆーキメ細かい装飾は、女手が欲しいのよん!」
ジェリーは心が乙女の、黒の教団の総料理長である。インドのムタイ道場の実家から家出し、諸国を放浪し中国で己の母性と料理に覚醒めたとか。
そんな経歴を持つ彼女は「全くもう、すみれったら!」と楽しそうに厨房へ戻って行った。
黒の教団は激務な仕事のせいか、圧倒的に男性が多い。
(確かになー、女性ならではの飾り付けってあるよなー)
すみれはそんなことを思いながら、せっせと手を動かし食堂を飾り付けていく。
(それに今日こそは、ディ…ラビと、話をしたい)
結局、歓迎会当日を迎えるまでに、話す機会を得られなかった。というより、ただしくは逃したと言うべきだろうか。
(…今日までに、仲直りしたかったのにな)
楽しい歓迎会を迎えたかったのに。
いや、でも喧嘩をしたわけではない。
いや、でもラビのあの態度は。私に対して明らかなんだよなあ…
ラビと目が合えば、いつも通りの笑顔でニコッとしてくれる。そう、機械的にしてくれるだけ。まるで“これ以上話しかけるな”と言っているように。
すみれはどのように話を切り出すべきか、ずっと悩み続けている。
(もういっその事、「何で避けてるの?」って聞くべき?…いやいや、端的すぎるよね)
頭を悩ませながら、脚立の天辺に座り装飾作業をしていると、リナリーが「あっ」と声を出す。
「ラビ!」
「?!!…わ、わ、わっ、!?」
悩みの種であるラビが食堂に現れた。