第14章 距離
科学班のメンバーとリナリー、そしてラビが楽しそうに話しながらラボに向かう。
ラビは数日前に黒の教団に訪れたばかりだが、あっという間にみんなの輪の中に溶け込んでいる。
そこにはすみれが見たことのないラビの姿があった。
(よく知っていた、見慣れてた背中なのに…知らない人のみたい)
すみれは皆の少し後ろを歩きながら、少年から青少年へ成長したラビの背中を見ていた。
先程、自分が発した言葉を思い出す。
“ぶ…ブックマンのことは、知らなかったよ!”
ディック…じゃなかった、
ラビ自身について触れて良いかわからず、そう答えてしまった。
(というか、“ブックマンのことは、”って…!)
ちょっと含みのある言い方になってしまっただろうか。
ブックマンーーーあのお爺さんとは、知り合いじゃなかったという意味で言ったのだが。
(言い方、間違った気がする)
ラビにとって、嫌味な言い方をしたかもしれない。
すみれはラビと再会後、リーバー班長にブックマンについて話を聞いた。
『“ブックマンとは、世界中の裏歴史を記録する者。”
ーーーー世界中を飛び交い、歴史に除外される歴史を記録するらしいぞ。』
「そんであの爺さんがブックマンで、少年がブックマンの後継者、Jrだそうだ。」とリーバー班長は付け足した。
科学班の皆も初耳のようで、「へぇー」「ただの一般人じゃないんですねぇ」なんて言っていた。
“世界中の裏歴史を記録する”
(そうだったんだ)
当時のディックについて不思議であった事に、全て当てハマったきがした。
信じられないくらいの多国・多民族の言語や歴史を修得していたこと。
色んな国を訪れていたこと。
自分自身について色々語らないところ。
ーーーーそして、素性を明かさなかったところ。
(あの時言ってた家業は、“ブックマン”のことだったんだ)
歩く度に揺れるラビの赤髪を見て、すみれはそんな事を思っていると、
「すみれ!そんな後にいたら、置いてくわよ?」
「ちょ、待ってよリナリー!」
「すみれてば、鈍臭いなあ」
「もうっ!ジジってば!それは余計ー!」
みんなの輪の中に戻る際、ふとラビと目が合いニコッと笑ってくれた。しかし、喜ぶ間もなくすぐにサッと逸らされてしまった。