第14章 距離
「なあ、ジジイ」
「なんじゃい」
「あの時、何で俺を咎めなかったんさ?」
ほんの一瞬、食事をしているブックマンの手が不自然にピクリと動く。ラビはそれを見逃さなかった。
「ほう、あの時とは?」
「惚けたフリすんな、その場に居ただろ」
あの時とはーーー俺がすみれに深入りし、戦争の最中に彼女を助けた時、そして
「俺が、ブックマンの掟をーーー」
「破ったとき」、そう言おうとした時
「ラビ!ブックマン!」
鈴を転がすような声で2人の名を呼んだのは、リナリーだった。
リナリーの登場で、先程の重苦しい雰囲気が一変する。
「お、リナリーじゃんか!」
「私も一緒にランチしていい?」
このとても可愛らしい少女は、リナリー・リー。黒の教団室長の実の妹であり、数少ないエクソシストの1人である。
教団一の美少女である彼女の顔には、似つかわしくない大きなガーゼが貼られている。数日前、任務で傷を負ったようだ。
そんな怪我を気にもせず、ニコニコと見惚れるような笑顔で接してくれる。AKUMAとの大戦で負った傷は、体だけではないだろうに。
「(……。)もちろんさ♪」
「わしは先に戻っておるぞ」
ラビはニコッと人懐こい笑顔を向けるも、ブックマンは食事のトレーを持ちさっさと席を立つ。
「ちょ!ジジイ、待つさ!話の続きは、」
「さて、何のことかのう。わしは一服してから部屋に戻る。ゆっくり食べて来るがよい」
そう言い残し、ブックマンはラビを置いて食堂を出ていった。
「…私、一緒にいいのかな」
「気にせんで?ジジイの奴、忙しくてさ。俺もまだ食べてねーし!」
「隣に座るさ♪」と、ラビは空いている椅子をぽんぽんと叩き、戸惑うリナリーを催促する。リナリーが嬉しそうに椅子に座るのを確認して、一緒に昼食を食べる。
ラビはやっと、トレーに乗った冷めたパスタをーーー大きなエビや貝が沢山のっているペスカトーレを、口に運び始める。あ、コレ旨っ!
頬張って食べているラビに、リナリーが話しかける。
「今度ね、歓迎会をやろうと思ってるの!」
「歓迎会?」
「そう!ラビとブックマンの歓迎会」