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49番目のあなた【D.Gray-man】

第13章  現在に至るまで



「俺は仕事がある。見届けなきゃなんねえさ。俺は大丈夫だから、すみれは生き延びろ。



ーーーーお願いだから、死ぬな。」


良い子だろ、と俺はすみれの乱れた髪を掻く。俺が贈ったへアアクセサリーがキラッと光を放った。

(あぁ…)


すみれと過ごしたかけがえのない日々が蘇る。
この手をすぐにでも手放さなければならないのに、手放したくない。サヨナラしなくてはいけないのに、まだすみれの傍に居たい。

嫌だ

サヨナラなんて、絶対に嫌だ。







「…わかったよ」

「ッ!」

俺が心の葛藤でその場から動けないでいると、すみれから声をかけられた。

「ディックの、言う通りにする……助けてくれて、ありがとう。また 会えるよね?」

「…っ」


先程負った頬の傷から、血が流れ出ているようだ。頬に生暖かいモノが流れ落ちた感覚が伝う。


「ーーーーーーーーああ。」


二度と会うことなど無い。
けれど俺にはこの返事以外、返す言葉が見つからなかった。

すみれは一瞬、ひどく悲しい顔をした。と、思ったが、再びすみれに視線を戻すと、そこにはいつも見慣れたすみれの笑顔があった。
先程の、失意と絶望に打ちのめされた彼女は何処にいったのか。


「なんでさ…ッ」

なんで、この状況で笑えるんさ


俺達を追い込むように、戦火はバチバチと音を立てる。すみれの屋敷だけではなく、街の建築物が爆弾によりどんどん姿を瓦礫に変えていく。
俺とすみれは、今まさに戦場の中心にいる。

すみれは動けない俺の横を、何事もないように通り過ぎる。


「ディック、ありがとう





また、ね…ッ!」


そしてすみれは俺を残して、裾がボロボロになったドレスを翻しながら1人で走り去った。すれ違いざまに、見えたすみれは

泣いて、た


「すみれ…ッ」


なんて呆気ない別れだろう。
あんなにも楽しい日々を重ねたのに、大好きな人との別れなのに。感謝の気持ちどころか、きちんとサヨナラすらも言えなかった。


バキバキバキバキーーーッ


戦火により命を絶たれた木々が次々と焼け落ち、俺と走り去ったすみれの間に倒れていく。
俺が出来た事は、戦争の真っ只中に彼女を放り込むことだけだった。
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