第13章 現在に至るまで
俺のした事はすみれにとって、正しかった?間違いだった?
そんな答えすら、俺は出せなくて
「ーーーーーすみれッ!!」
今更、本当に今更さ。
俺は走り去ったすみれに向かい、声を荒げ叫んだ。心の苦しさを吐き出すかのように。
「絶対にッ!絶対に、死ぬんじゃねーぞ!」
すみれは振り返らなかった。
きっと、この声は届いてない。届くはずもない。
戦火の炎が燃え上がる音、爆撃音、けたたましい警報音がそこら中で鳴り響いているのだから。
「絶対にッ、生きのびるさ!!」
こんなに感情を、気持ちを、曝け出したことはあっただろうか。
「絶対にっ…、幸せに、なれよ!!」
最後の方は、上手く発音すら出来なかった。まるで涙声になり、言葉が詰まってしまったかのようだった。
「大好き、だったさ…」
振り絞った最後の言葉は、ポツリと呟きのような小さな声量が精一杯だった。
“大好きだった”
あえて過去形で言ったのは、もうお終いだから。お終いにしなくてはいけないから。
未練がましく、すみれの後ろ姿を見つめる。動きにくいドレスと、走りにくいヒールの靴のため、すみれの姿はまだまだ視界にはっきりと映る。
「すみれッ!」
しかし、それを許さないかのように、木々や建物が次々と倒れ、俺の視界からすみれの姿を奪っていく。そして、
「ーーーーーー記録だ、ゆくぞ。」
後方からジジイの声がした。
使命を果たさなければならない時は、とっくに訪れていた。これ以上、ブックマン後継者として掟を破る事は出来なかった。
「わかってるさ」
俺はそう返事をし、すみれに背を向け歩き出す。
別れが来ることも、叶わぬ想いも。
すみれの安否さえ、見守ることができないことも。
全てわかっていた事なのに。
すみれといつまでも一緒にいられるような、そんな気がしてしまっていた。
何もかもが楽しくて、俺の過ごした短い人生で1番きらめいていた。
だから、未熟な俺は肝心なときに何も出来なくて
(…もう、こんな惨めな気持ちは、まっぴらさ)
だからもう二度と、心を許さない
俺の目に映るモノはただの出来事で、それを映す俺の目はガラス玉さ
弱い俺は
そう、強く誓った。