• テキストサイズ

49番目のあなた【D.Gray-man】

第13章  現在に至るまで


俺は足を止めることなく、すみれの手を引き走り続ける。
もうすみれとの別れのカウントダウンが迫っている。


「すみれ」

「…」

「すみれ、聞いて」

「…うん、ッ…」


苦しそうなすみれの声にも関わらず、返事が返ってきただけで、嬉しくて胸が熱くなる。
だってもう、すみれの声を聞くことなんて一生出来なくなるのだから。


すみれに出会えた事、一緒に過ごした事

ーーーー好きになってしまった事


後悔していない。

これっぽっちも、していない。


すみれと別れがある事など、分かっていた恋であったけど。きっと俺には必要な事だったと思う。

例え、ブックマン後継者としてタブーを犯してしまったとしても、何1つ後悔などしていない。


すみれなんて、歴史に名を残すことなどない人生だろう。

だけど、

俺はすみれの事を、すみれとの思い出を。ずっと心に抱いて生きていくと思う。

すみれと出会えて、本当に良かった。
身が引き裂かれそうに心が痛い程、切ないけれど良かった。

こんな状況にも関わらず、ふと夜空を見上げると星たちは輝いていて、俺は自然と笑みを浮かべていた。

覚悟が、きまったさ。


「……すみれ、ありがとさ」

「…えっ?」


この感情は恋なのか、愛なのか。
それすらも分からないほど俺はガキだけど、すみれの事は人として、女性として、大好きさ。
それだけは間違いない。

だから、

そんなすみれが自分の目の前で命を落とす瞬間とか、他の男と幸せになる姿とかを見るのは、きっと耐えられない。

せめて、綺麗な思い出のままでいさせて?




「ーーーー振り返らず、行くさ。この戦場から逃げろ。」


爆薬により建物が崩壊し、周囲には火の粉も上がっている。どうやら別れを惜しむ時間すら、与えてはもらえないようだ。


「ディックは…?!一緒に逃げなきゃ!」


走り続けていたため、一度走りを止めたすみれはその場に座り込んでしまった。俺はすみれの腕を持ち上げ、立たせる。

(ーーーーーすみれ)

すみれの肩に手を当て、しかと両目を合わせる。すみれの黒い瞳が、俺を映す。

(ごめんな)


ーーーーーサヨナラ、さ。
/ 355ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp