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49番目のあなた【D.Gray-man】

第13章  現在に至るまで



苦しかった

自分の本心と向き合う術を、見つけられなかったから。ブックマンに、心は必要ないから。

そんな時。
俺の壊れた心のドアを、そっと叩いてくれたのはすみれだった。




バタバタバタバタバタ……

バンッ

「やっと、屋敷の外さ…!」


屋敷の扉を開けると、真暗な暗闇が広がっているかと思いきや。そこには憎らしいほど美しい満点な星空がどこまでも続いている。


「すみれ、大丈夫さ?!…もう少し走れるかっ?」

「…うんっ…ゲホッ」


しかし、自分達の足元は、屋敷は半壊し周囲は戦火の火の粉が上がり始めていた。
建物の崩落音や爆発音も激しくなっている。
なんとか切り抜けられたものの、油断は出来ない状況だった。

そして、俺の目に飛び込んできたのは

ーーーーーブックマンの、じじいの姿。


「ーーーッ」


それはブックマンとしての仕事が、使命が。歴史の記録が始まる事を示していた。

じじいに何度も教え込まれたセリフが、瞬時に脳裏に甦る。



“おまえは何者か?”
ーーーブックマンを継ぐ者。


“ブックマンとは何か?”
ーーー歴史の傍観者であり、記録者。世界の裏歴史を書き留め、後世へとつないでいく者。


“ブックマンはどうあるべきか?”
ーーー情を移さず、情に流されず、様々な人々と言葉を交わし、そして何事もなかったように去っていく。

感情は不要。我らは歴史の傍観者。
それがブックマンとなる者の定めであり、掟ーーーーー。



汗ばむ手で、ぎゅっと握りこぶしを作っていた。

(俺は…っ!)

ブックマンを継ぐ者。
それは絶対に何があろうと変わらない。

だけど、


「…最初で、最後さ」

じじいの教えを、ブックマンとなる者の定めを破るのは。

「説教は後で聞くさ…っ!」

説教で済めばいいのだが。
俺はすみれの手を引き、じじいの横を走り去った。
じじいは俺を止めることも咎めることもせず、何事もないようにその場から動かなかった。



(俺は…ッ!後悔したくないッ)

すみれは、幸せだったのか?

(まだ何も…何1つ、叶うどころか、報われてすらいないっ)

この戦火から逃れて欲しい。

(でも本当の理由は、そんなキレイなものじゃなくて…ッ)


俺が、すみれの傷付く姿を。命を落とす瞬間を見たくないだけだ。
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