第13章 現在に至るまで
「だから、いいんだ」
「ん?」
「例え、頑張った事で偉業を残せなくっても。歴史に名を残せなくっても…
ーーー大切な人がいる、そんな幸せな人生なら。」
なぁんてね!と、すみれは自分の発言が恥ずかしくなり、照れ隠しで笑って見せる。
バカな俺はすみれの意味有りげな遠くを見つめる横顔にも、言葉の真意にも気づかなかった。
照れ隠しをするすみれに“やっぱり可愛いさ”と思うだけだった。
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どうして、今になってこんな会話ばかり思い出すのだろう。
「はぁっ、は…ッ!すみれ、大丈夫か?!」
「はあッ…うん…っ」
「もうちょいで、外だから…ッ!」
俺はすみれの手を引きながら、必死に走る。こんな切羽詰まった状況にも関わらず思考は冷静なのか、走馬灯のようにすみれとの思い出が頭の中を駆け巡る。
ガラガラガラガラーッ
「…きゃっ?!」
「っ!、危ねェッ」
グイッ
建物が崩落し、すみれに襲いかかる。
俺は咄嗟にすみれの腕を掴み、崩落のない壁側へ引き寄せる。すみれに危害が及ばないよう、俺は自然と覆い被さっていた。
「…っぶねー、」
「ディック!!血が…っ」
「あ?こんなん、大したことないさ」
さっきの崩落物が顔に掠り、頬をほんの少し切ってしまっていたようだった。
「…だ、よ…」
「?」
「私なんかのせいでっ、ディックが怪我するなんて…嫌だよ…っ」
「…ッ、そんなことッ!今は、走るさ!」
俺は再びすみれの手を取り走り出す。
(“私なんかのせい”なんて、言うな…ッ)
すみれの苦しそうな顔が、俺の脳裏に焼き付いてしまいそうだ。
俺の知ってるすみれは、そんなんじゃない。
(すみれには、笑っていてほしい…ッ)
俺はずっとずっと、人間に失望していた。
戦争ばかり繰り返す種族と俺は違うと思っていた故に、孤独だった。
夜になると孤独がより深くなり、部屋でうずくまる日もあった。シーツに顔をあて叫ぶも、言葉にならないもどかしさに襲われた。
だから、ブックマンとして生きようと強く思ったし、不要なモノは迷わず何もかも捨ててきた。