第13章 現在に至るまで
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「ディックは凄いよねぇ」
「へ、何が?」
お茶会という名の勉強会で、すみれと過ごすことが当たり前となった、ある日の昼下り。
すみれは解いていた数式から視線を外し、頬杖をつきながら俺に話しかける。
「だって、もう家業を継ぎ始めてるんでしょう?凄いなあって思って」
「そんなことないさ。アレじゃね、生まれた宿命ってヤツ?笑」
自分のやっている事が“裏歴史”だの、“ブックマン後継者である事”だの、一族について話す事が出来ないため、とりあえず家業と言っている
「またそうやって、軽く流す…」
すみれは「本当に凄いと思ったのに」と、プクッと頬をふくらませ、プイッと俺から顔を反らす
そんな幼い行動も可愛くて、微笑ましくて思わずフッと笑ってしまった
…なんかもう。末期さね、俺
「悪ィ悪ィ!そんなつもりじゃなくて…つか、みんなそんなもんじゃねぇの?家や家業を継ぐなんて」
「そうかなあ。でもディックを見てると継いでるっていうより、自分のやりたい事をやってる感じがして!」
「まあ、確かに…言われてみれば好きでやってるようなもんさね」
だって、皆が知らない事を知れるって面白ぇじゃん…ま、こんな事は口が裂けても言えないけど
「やりたい事を出来てるって、凄いことだよ!…私は自分が何をしたいの、まだかわからないもん」
「すみれのやりたい事は、勉強だろ?」
「そうなんだけど、今はただ知識をつけてるだけで、役に立てる何かでもないし」
「夢とかねぇの?」
「夢、ねぇ…」
うーん、とすみれは考え込む
(きっと、すみれは調べたり研究したりする事が向いてんだろうなあ)
勉強好きで、努力家だし。意外と根性もある。自分が知りたいと思った事は突き詰めて証明する
(そうなると、研究者とか…)
決して、俺からはそんな助言はしない。
だってすみれの貴族令嬢の人生に、そんな選択肢は存在しない。そんな事を言ったら酷ではないか。
すみれ自身も、政略結婚させられる覚悟をしている。
ズキン、と胸が痛む
(この痛みは…)
すみれが不憫で可哀想だからなのか。それとも俺の人生とは決して交わることがないからなのか。
それとも別の何かか