第13章 現在に至るまで
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何故、今になってそんな事を思い出したのか。
「はぁっ、ハ…ッ」
息が上がる。
しかし、この息の上がりは走っているせいだけではない。
(今更、後悔したって…!)
そもそも、何に後悔するんさ。
ブックマンとして、仕事をしていたこと?
すみれに出会ってしまったこと?
すみれを、好きにってしまったこと?
「…ッ」
ブックマンになることが、嫌になった訳じゃない。すみれに出会わなければ良かったと、思っている訳でもない。
だけど、この気持ちの答えを、はっきりカタチに変えてしまうのが怖くて仕方ない。
(俺って、ほんと…ッ)
情けねぇさ
「…ぅおっ?!すみれ?!!」
突然すみれの足が止まる。
そのため、俺の足も強制的に止まらざるを得なくなってしまった。
「どうした?!もう少しで屋敷の外だから…ッ」
崩壊しかけている屋敷内にいるのは危険すぎる。一刻も早く外へ出る必要がある。
「…かな、…」
「え?」
「私…ッ、生きて、いいのかな…っ」
「すみれ…っ」
すみれは苦しそうに胸を抑え、肩を激しく上下させ呼吸をしている。
全力疾走させたせいもあるが、すみれのその苦しさは、そのせいだけではなくて。
「わ、たし…私は…ッ!」
すみれの瞳から、再び涙が落ちる。
繋いでいるすみれの指先は冷たくて、寒いわけないのに身体はカタカタと震えている。
すみれが言わんとしてる事が、手に取るようにわかる。
両親を殺した相手と、生きていた事。
間接的に叔父達の悪事に加担していた事。
今まで何も知らずに、過ごしてきてしまった事。
それ以上に様々な責任を感じている事が、繋いだ手から伝わってくる。
すみれは言葉を紡ごうとしても、紡げないでいるその姿が痛々しくていたたまれない。どうしてすみれが、
「当たり前、だろ…ッ」
生きていいのか、なんて。
自責の念に苛まれなければいけないのか。
「今はっ!ここを出ることだけを、考えるさ……走れッ!!」
俺はすみれの手を強く握り直し、再び走り出す。
ふと、ある日のすみれとの会話を思い出した。