第13章 現在に至るまで
(ま、どうにかなるだろ…)
今までだって、どうにかなっていた。どうもこうも、ただその場を離れるだけの話さ。
ただ、いつもと違うのは
胸の奥に、この揺れる気持ちを秘めていること。
(今までは、こんな事なかったさ)
だから、どうして良いかわからなくて誤魔化すように日々を過ごす。
(きっと、誰にも言っちゃいけない…そんな気がする)
特に、ブックマンのじじいには。
それだけは何となく感じていた。
(どうして、こんなお嬢様をきにかけたのか)
飛び抜ける程の容姿でもない、俺のタイプでもない。少しちょっかいをかけてみただけ。仕事の合間に、からかって遊んでただけ。
じじいの言付けで、見張ってただけ。
叔父や叔母のように、ブローカーであるのか。千年伯爵やAKUMAと接点があるのか。
(結局、すみれ自身には何もなかったが…)
そう、すみれ自身には。
ちょっと珍しい東洋人で勉強好きの変わり者だが、どこにでも居る貴族令嬢だった。
調査をして分かったことは、叔父と叔母が“危ない事業”に手を染めていること。
薬物貿易、詐欺、武器の売買や横流し、横領、殺人まがいーーーー挙げたらキリがない。
(きっと、いつか命を落とすだろう。)
人の恨み辛みを買い過ぎている。
それも国を跨いで、他国のトップの人間にも行っている。戦争の火種になるには十分過ぎた。
(あんな奴ら、どうなってもいい)
けれど、すみれは?
(どうなっても、いい。なんて…ッ)
思ってないし、そう思えない。
何故すみれがそんな目に合わなくてはいけないのか。
俺は沸々と湧き上がる心の内とは反対に、表面上は冷静なフリをして本のページをペラリと捲る。頭に入ってこない活字を目で追う。
(…すみれは、叔父と叔母のとばっちりに合う可能性が高い)
あの二人と共に暮らしているのだから、運命共同体のようなものだ。最悪、命を落とすかもしれない。
「…ッ、人間、みな必ず死ぬもんさ。」
大抵の者が、歴史に名すら残さず死ぬ。例え名を残しても、この本の活字のように皆インクに過ぎない。
叔父と叔母の行った悪事は、戦争のきっかけとして辛うじて歴史に記録されるかもしれない。
しかし、すみれなんて記録すらされない、何も残らない人生だ。