第13章 現在に至るまで
この地響きと、建物の崩落音。
地震なんかじゃない。この聞き慣れた音は…
(ッ!!、…まさか?!)
「このタイミングで、訪れたっていうんさ…?!」
講堂の窓に目線を向けただけで、状況を把握できた。
(最悪さ…ッ)
俺は思わず髪をグシャッと鷲掴む。額には冷や汗が滲む。
音の正体は、爆撃による破壊音だ。
……戦争が始まってしまった。
「一体何が起こってるんだ?!」
「あなた!どうゆうことよぉっ!」
叔父と叔母は状況が把握出来ず、慌てふためいている。すみれを見るも終始無言のまま。しかし、その瞳は不安と動揺で揺れていた。
「…ッすみれ」
すみれは自身に突きつけられた真実を、まだ頭と心で処理が出来ていないようで茫然自失していた。
頬を伝った涙の跡が痛々しい。でも、今は
「すみれ、しっかりするさ!」
「…」
「っ、走れッ!!」
俺はすみれの手を半ば無理矢理引っ張る。崩落が始まってしまった建物から、避難することが先決だ。
(…畜生ッ)
なんで、今なんさ
(……畜生ッ!!)
この日が、この瞬間が。
訪れる事なんて、すみれと出会う前から分かっていたことなのに。
俺はちっとも覚悟が出来ていなかった事を思い知らされた。
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「おそらく、もう戦争の火種が上がるじゃろう」
「…あぁ」
「いつ起こってもおかしくない」
仮部屋のベッドの上で、寝そべりながら本を読んでいた(というか、ベッド以外は新聞やら本やらでスペースがない)。俺は読みかけの本から顔を上げもせず、じじいの言葉に短く返事をした。
「この間も言ってただろ?“近々戦争が起きる”って」
「わかっておるなら良い」
じじいはそう言うと、仮部屋から出ていった。
(あ、この本も読み終えちまう)
残り数ページとなった分厚い本も、あっという間に読み終えそうだ。
(すみれと過ごす日々も、終わる時が来んのかな…)
この本のように、最後のページに結末があるように。理解はしているものの、現実味が沸かなかった。
すみれに会えば会うほど楽しくて、同時に不安定に揺れ動く気持ちを、胸の奥に秘めるようになった。