第13章 現在に至るまで
これからお世話になる人に、心配かけちゃいけない。
何より、お父さんとお母さんの思い出を、悲しいものにしたくない。だから、
『……私はもう、両親がいなくても。大丈夫です』
ニッコリと、二人に向かって笑ってみせたんだ。
それからは叔父と叔母は、すみれに両親の話をしなくなったのだった。
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「すみれは両親が死んでも悲しまない。…愛のない、冷めた子どもだったよ」
当時、伯爵に引渡せなかった悔しさを滲ませながら、叔父はすみれに言い放った。
(お父さんとお母さんへの、愛がない?)
悲しまないように、してたのは
大切な思い出を、悲しいモノにしたくなかったから。
大好きだったから、
愛していたから
「…実の両親に会いたがらないなんて!親を求めないなんて!…すみれ、あなたの方がよっぽど“悪魔”よ」
すみれを軽蔑するかのような眼差しで、見下しながら叔母は言う。
(お父さんとお母さんに、会いたがらなかった?)
会いたかった
ずっと一緒にいたかった
ドレスも、宝石も、裕福な生活も、何も要らない。ただ、両親の側にいたかった
何で、私だけ置いて逝ってしまったの?
いっそ、連れていってほしかった。
「お父さんっ、お母さん…っ」
視界がぼやけ、手元が見えなくなる。
すみれはギリィッ…と床に爪を立て、手を握る。その手の上に、涙がポタポタと雨のように降り注ぎ濡れていく。今になって感情が湧き上がる。それは、
寂しさ 恋しさ 愛しさ
そして
悲しみと、憎しみ。
(私から、両親を奪ったのは…)
偶発的な、事故ではなかった
叔父様達により、引こ起こされたものだった
(私の、お父さんとお母さんを殺したのは…っ)
叔父様と叔母様、だった。
(憎い…)
ふたりが、憎い
(……許さない…許さないッ!)
すみれは涙で濡れた目で、叔父と叔母を睨む。
「ふんっ!そんな目を向けられても、怖くもない」
「むしろ、今までお世話してきたんだもの。感謝してほしいわぁ」
「…ッ、ッ」
言い返したいのに、言葉が出てこない。
言葉の代わりに大粒の涙が、次から次へと目からこぼれ落ち、床にシミをつくっていく。