第13章 現在に至るまで
「どうゆう事さ?」
ディックはすみれの代わりに叔父に問う。
「そのままの意味さ。
頂くものがなくなったすみれに、価値などない。
……まだ10歳になるかならないかの子どもだ。親を求めるのは当たり前だろう?」
「…幼いすみれを千年伯爵に売りつけ、AKUMAにしようって魂胆だったって、ワケさね」
最低だな、とディックは叔父に吐き捨てた。
「しかし、すみれは両親を求めなかった!親の言いつけか何なのか知らんが、“もう会えない”の一点張り。
両親を生き還らせるのはすみれだけだと、何度も言ったにもかかわらず!」
(“生き還らせる”…)
すみれは上の空で、叔父とディックのやり取りを聞いていた。
(…ああ、思い出した)
まだこの屋敷に来たばかりの頃だった。
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『すみれ、両親に会いたくないかい?』
『ご両親を生き還らせるのは、すみれだけなのよ』
叔父と叔母が、優しく私に語りかける。
『……もう、会えないです』
『そんなことないぞ。すみれが願えば…』
『私が願っても。お父さんとお母さんの体は土に還り、魂はあの世に逝ってしまったもの』
『それでも、あなたが願えば会えるのよ?』
叔父と叔母は何度も言うも、私は頑なに耳を傾けられなかった。
『…両親が、教えてくれたんです。死んでしまった生き物は、土に還るって。』
大事にしていた小鳥が死んでしまった時に、学んだ事だ。
*
“えーん、えーん”
“すみれ、小鳥は死んじゃったの。生き物は皆、命が尽きたら土になるの…そんなに泣くんじゃありません”
“お母さん、だって…!”
“すみれは、この小鳥が大好きだったもんなあ。でも、ずっと悲しんでると、すみれのこと心配が心配で成仏できないぞ?”
“…お父さん…もう、泣かないっ”
“お、えらいぞ!”
“…じゃあ、泣くのは今日だけにしましょうね?
小鳥は沢山の幸せをすみれにくれたんだから、悲しい思い出にしたら可愛そうだわ”
“うんっ”
*
『…あんまり悲しむと、その人の事が心配になって成仏できないから。』
叔父と叔母が困惑している様子が、幼心でもわかった。