第13章 現在に至るまで
「取引は一旦中止だ」
叔父の声に、叔母とメイドが一斉にこちらを振り向く。
「どうして、すみれがここに…?!」
「お…お嬢様?」
「悪いが、君は仕事に戻ってくれ」
叔父はメイドにそう告げる。
メイドはこの状況に不思議そうな顔するも、言われた通り講堂をすぐに立ち去った。
それを確認した叔父は、叔母の耳元で何かを囁いた。
(…きっと、私が何故ここにいるのか説明をしたのだろう。)
叔母の顔つきが一瞬で冷めたものへと変貌し、キッとすみれを睨みつけた。
「…っ」
今まで慕っていた叔母から放たれた敵意に、すみれは怯みそうになるものの、足を一歩踏み出し、耐える。
「…では、何から話そうか?」
叔父は講堂の、壇上の机に直に座る。
「…“危ない取引”とは、先程のメイドと行おうとした取引も、含まれるの?」
「そうだよ」
叔父はさも当たり前かのように、さらりと言ってのける。ましてや「失礼」と一言、タバコをジャケットから取り出し一服しだす始末だ。
「…その、“危ない取引”って、なんなの?亡くなった人の名前が記載された顧客リストと、関係があるの?」
「ははっ、
…頭の良いレディは、嫌いだよ」
「…ッ、それは、具体的にどんな取引なの?」
叔父は冷たく肯定の言葉を言い放った。叔父の言葉に、すみれの胸が二重の意味でズキズキと痛む。
“危ない取引”に、亡くなった顧客リストが関係していた事へのショックと、
慕っていた者に「嫌いだ」と突き放されてしまった事への、悲しみ。
「…愛は、金を産むのだよ」
「愛?」
「そうさ。愛する者が亡くなった時、誰もが願うだろう?“会いたい”と、“生き還ってほしい”と!
…それが取引になるのだよ」
「…あなた、そんな事教える必要は、」
今まで静かに見守っていた叔母が口を挟む。
「お前は黙っていなさい」
ピシャリと、叔父が言い放つと叔母は数歩下がる。それからは何も言わなくなってしまった。
(『愛する者』『亡くなる』『取引』…)
すみれは先程の、叔母とメイドのやり取りを思い出す。
「…亡くなった人を“生き返らせる”なんて言って、取引をさせるの?」
「そうさ」
「亡くなった人は生き返らない…!」
私の父も母も、生き返らない。
死者は死者のままだ。