第13章 現在に至るまで
「か…彼は、付き添い!唆したのは、私!」
「どういう事だい?」
「…教えて、真実を」
「真実?」
「…危ない事業をしている事、私が養子ではない事。
亡くなった顧客リストのこと!!」
緊張で、手が震える。息が上がる。
それを隠すように、すみれは声を張り上げて叔父に問いた。
「は…
ははははは!これは面白い!!
知っているのだな…なあ、すみれよ!」
叔父様は驚きもせず、動揺もせず。額に手を置き、「これは傑作だ!」と似合わない高笑いをする。その声は廊下に木霊した。
「良いだろう!お望みの通りくれてやろう、
……入れ」
銃口は相変わらず二人に向けられたまま、叔父は講堂に入るよう顎でクイッと促す。
「…すみれ、大丈夫か?」
ディックは震えるすみれに寄り添う。
「私は行かなきゃ…ディックは、逃げて」
だって、この先は何があるか分からない。
私がディックを守る術なんて、ないのだから。
「逃げない」
「でも…」
「言っただろ、乗りかけた船さ。自分の身は自分で守れる」
「…」
本当は、ディックに側に居て欲しい。怖くて仕方がない。だけど、そんな事は口が裂けても言えない。
すみれはディックに返す言葉が見つからなかった。
「すみれは、すみれの事だけ心配してればいいさ…最後まで付き添わせて?お願い、さ」
「俺、こう見えて場馴れしてるから大丈夫さ!」とニコリとすみれに笑ってみせる。
(ああ、なんて…)
私は、残酷だろう。
ディックを守る術なんか1つもないのに、これから起こる事は命の危機に関わるかもしれないのに。
ディックを巻き込んでしまった事に、一人ではない事に。とても安心してしまった。
(……ごめん…)
自分勝手な卑怯者な、私で。
ごめんね、ディック。
でも、
「…ありがとう」
「おう」
「だけど。本当に危ないと思ったら、逃げて」
「わかったさ。その時は一緒に逃げよう」
二人で手を取り合い、講堂の扉に手をかける。扉はギィィ…と音を鳴らし、二人を迎え入れた。暗闇の中心へ、一歩一歩すすむ。
(真実と、向き合おう。向き合わなきゃ)
いつの間にか、すみれの震えは収まっていた。