第13章 現在に至るまで
屋敷に戻ってみたものの、普段の様子と明らかに違う。
屋敷の明かりは最小限にされて暗い上に、いつも大勢いる使用人達の姿も全く見当たらない。
異様な静けさに包まれた屋敷の廊下は、自分達の足音ですら不気味に感じさせた。
「ここの部屋にもいないさね」
「うん…」
叔父様と叔母様が居そうな仕事部屋、書斎、ホール、客間等を訪れてみたものの不在だ。
こんなにも移動しているのに、誰にも遭遇しないのが不思議だ。移動は捗るものの、逆に不安が募っていく。
住み慣れているはずの屋敷に、すみれがいることを歓迎されていないように感じた。
「ここにも居ないとなると…講堂かな?」
「講堂?」
「あんまり使用しないんだけど、色んな事に使ってるの。
催事とか、パーティーとか、取引の契約とか。礼拝堂として使用することもできる所。」
「…行ってみるさ」
二人は講堂を目指して再び移動した。
「…シッ!」
「っ!」
ディックが歩を止め、すみれに静止するよう合図する。
「…こっからは、なるべく足音を立てるなよ」
すみれは黙ってコクコクと頷く。
講堂に近づくと、やっとディックとすみれ以外の他人の気配を感じた。
はっきりと聞き取れないが、女性の声がする。これは叔母様と…
「…うちの、メイドの声?」
「メイド?」
「うん、叔母様とメイドだと思う」
何やら二人で話しているようだ。
二人のやり取りを聞くために、講堂の扉へ近づく。幸いにも講堂の扉は少し開いており、二人の声だけではなく姿も確認することができた。
耳を澄まし、やり取りを盗み聞く。
『…奥様、その話は本当でしょうか?』
『何度も言ってるじゃない。彼に会いたくないの?』
確かあのメイドは最近、婚約者を亡くしている。気の毒だなと思ったことを覚えている。
『会いたいに、決まってます…ッ!』
『あなただけなのよ。婚約者を生き返らせるのは』
一体、何の話をしているんだろう。宗教の話だろうか?
一瞬、ふと何かを思い出す
“あなただけなのよ。ご両親を生き返らせるのは”
(あれ……あれ?)
このセリフ、私も以前に聞いたことある気がする。いつだっただろう、この屋敷に来た時…?