第13章 現在に至るまで
「ディック」
「どうした?」
「屋敷に、戻りたい」
「…無理する必要は、ないさ」
すみれはフラフラと立ち上がるも上手く力が入らず、歩き出すものの躓いてしまう。
「このままじゃ、駄目なの」
嫌な事には目を逸らして、知らないフリをして、蓋をする。そんなの、小さな子どもが悪さをして隠す事と同じではないか。
いや、そんな可愛い事では済まない。もっとタチの悪い…
ましてや、私は子どもではない。
「そんな状態で、行けるかよ」
「でも、行かなきゃ……あっ」
石に躓き転倒する寸前。
ディックが支え、ひょいと立ち上がらせてくれた。
「俺も行く」
「え?」
「こんなすみれ、ほっとけねぇし。
……乗りかけた船、さ」
そう言うとディックはすみれに肩を貸しながら歩き出す。
「…ディック、ありがと」
「礼を言うのは、まだ早いさ」
「それでも、ありがとう」
「これからさ…ホントの戦いは」
「…うん」
「今日はすみれの屋敷で不審な取引がある。すみれの知りたいことを、ちゃんと確認できる」
覚悟は、あるさ?と問われ、すみれはこくんと頷いた。
二人は屋敷に向かうために、早々に仮面舞踏会を立ち去り馬車へ乗り込んだ。
*
「…」
「…」
無言が続く。
馬車の歯車の音がガタゴトと二人の間に響き渡る。
(これから、何が起こるんだろう)
私は何を知って、どんな行動を起こせばいいんだろう。そもそも、私に出来る事などあるのだろうか。
すみれの手が膝の上でカタカタと震える。それは馬車の揺れのせいではなく、これから起こる事への不安と、恐怖からくるものであった。
「俺さ、」
「!、な…なに?」
突然、沈黙を破ったのはディックであった。
「すみれに近づいたのは、確かに調査のためさ」
(あ、やっぱりそうなんだ)
「…そ、そっかあ」
へらっと、笑ってみせる。上手く笑えてるだろうか。
ディックと目を合わせるのが辛くて、真っ暗で何も見えない外を眺めるフリをした。
わかっていた事とはいえ、本人から言葉にされるとズキンと胸が鋭く痛んだ。
膝の上で、ぎゅっと握り拳をつくる。
震えを収めるためではなく、ディックの言葉に耐えるために。