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49番目のあなた【D.Gray-man】

第13章  現在に至るまで



「ディック」

「どうした?」

「屋敷に、戻りたい」

「…無理する必要は、ないさ」


すみれはフラフラと立ち上がるも上手く力が入らず、歩き出すものの躓いてしまう。


「このままじゃ、駄目なの」


嫌な事には目を逸らして、知らないフリをして、蓋をする。そんなの、小さな子どもが悪さをして隠す事と同じではないか。

いや、そんな可愛い事では済まない。もっとタチの悪い…

ましてや、私は子どもではない。



「そんな状態で、行けるかよ」

「でも、行かなきゃ……あっ」


石に躓き転倒する寸前。
ディックが支え、ひょいと立ち上がらせてくれた。


「俺も行く」

「え?」

「こんなすみれ、ほっとけねぇし。



……乗りかけた船、さ」



そう言うとディックはすみれに肩を貸しながら歩き出す。


「…ディック、ありがと」

「礼を言うのは、まだ早いさ」

「それでも、ありがとう」

「これからさ…ホントの戦いは」

「…うん」

「今日はすみれの屋敷で不審な取引がある。すみれの知りたいことを、ちゃんと確認できる」


覚悟は、あるさ?と問われ、すみれはこくんと頷いた。

二人は屋敷に向かうために、早々に仮面舞踏会を立ち去り馬車へ乗り込んだ。









「…」

「…」

無言が続く。
馬車の歯車の音がガタゴトと二人の間に響き渡る。


(これから、何が起こるんだろう)


私は何を知って、どんな行動を起こせばいいんだろう。そもそも、私に出来る事などあるのだろうか。


すみれの手が膝の上でカタカタと震える。それは馬車の揺れのせいではなく、これから起こる事への不安と、恐怖からくるものであった。


「俺さ、」

「!、な…なに?」


突然、沈黙を破ったのはディックであった。


「すみれに近づいたのは、確かに調査のためさ」

(あ、やっぱりそうなんだ)

「…そ、そっかあ」


へらっと、笑ってみせる。上手く笑えてるだろうか。

ディックと目を合わせるのが辛くて、真っ暗で何も見えない外を眺めるフリをした。

わかっていた事とはいえ、本人から言葉にされるとズキンと胸が鋭く痛んだ。

膝の上で、ぎゅっと握り拳をつくる。
震えを収めるためではなく、ディックの言葉に耐えるために。

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