第13章 現在に至るまで
今まで教えて貰えなかったディックの事を、凡その事を聞いた。
ディックは家業のために、この地に留まっていたこと。そして、その家業とは何かの調査のようで、叔父様と叔母様に関係していたこと。
そのため、叔父様と叔母様のことは洗いざらい調べる必要があったこと。
私が調べていた『事業が上手くいっていない事』『私だけアジア系な事』『危ない事業に手を出した事』等は知っていたようでーーー
(ディックが、知っていたなんて)
信じ難い、事実だった。
今もまだ、信じられない自分がいる。
(ディックは初めから、私の知らない“全て”を知ってたんだ…)
それらを調べるために、私に近づいたの?
そう思うと、ズキッと胸の奥が痛んた。
「もし、すみれが本当の事を知りたいのなら、今すぐ帰るさ」
「……あんなとこ。帰りたく、ない」
「…あんな目に、あったばかりだかんな。無理して今すぐ知る必要はないさ」
「…」
ディックは何も言わない私に寄り添い、マントを肩にかけてくれた。それがとても温かくて、ずっとこのままでいられたら…と思ってしまう。
ただただ、この現実から目を背けたい。
ふと、月光で照らされたディックを見る。ディックの口元から血が滲んでいるではないか。
「…ディック、口元。血が滲んでるよ。」
「こんなん、大したことないさ。」
すみれはそっと、ディックの口元の血を手で拭う。
「……ごめん、な」
「何が?」
「守って、やれなくて」
「ディックの、せいじゃ…」
ディックのせいじゃないよ、と言おうとし、言葉が止まってしまった。
ディックの口元から流れる血は、先程の男性二人に攻撃されたものかと思ったが、違っていた。
ディックが自身で、唇を噛み締めていた。
「ホント、自分に腹が立って…悔しいさ」
ギリッと唇を噛みしめるため、再びディックの口元が血で滲む。
(きっと、無意識に噛んでるんだろうな)
すみれはディックの血がついた自分の手をぼんやりと眺める。
(……このままで、いいの?)
すみれは自分自身に問いかける。
(私の知らないところで、私に関係した人達が傷ついて、ましてや血を流しているなんて…)
そんなこと、あってはならない。
あってはならないんだ。