第12章 【番外編・SS】Valentine 2021
「ねえ、ディックってば!」
(……ハッ!)
すみれの張り上げた声で、我に返る。
「あ、なに?」
「もうっ、どうしたの?私の話聞いてる?」
「えーと、何だっけ?」
完全に自分の世界に入り込んでいたため、すみれの話を聞いていなかった。
「だからっ!そのチョコレート」
「あ、コレさ?………失敗作さ」
俺は持っているチョコレートを、サッと自分の背後に隠す。
「私にちょーだい?」
「は?いやいやっ、それは、」
「だって、私のために作ってくれたんでしょう?」
違うの?と、すみれは笑顔で小さく首を傾げる。可愛いな…じゃねぇさ、俺!!
「そう…だったけど、こんなもん渡せないさ!」
「どうして?」
「見た目悪ぃし」
「可愛いチョコだったよ」
「腹壊すかも?」
「壊さないよ、壊しても自己責任!それに、」
いつも控え目なすみれが、今日はぐいぐい押してくるではないか。俺の方がタジタジになってしまう。
「怪我するくらい、一生懸命作ってくれたんでしょ?」
「……バレた?」
「バレバレだよ!そんな絆創膏だらけの手じゃ」
すみれは俺の片腕を引っ張り、絆創膏だらけの手を、すみれの綺麗な両手で優しく包み込んでくれた。
「買ってくれたプレゼントだって、すっごく嬉しいよ?だけど、手作りってあんまり貰うことないから…やっぱり、嬉しいよね」
すみれは俺のボロボロな手を、慈しむように擦ってくれる。
「ディックが私のために作ってくれたって思うだけで、本当に嬉しいの」
冷え症なのだろうか。すみれの手は俺より冷たいのに、じんわりと俺の手を、心を温める。
「だから、そのチョコ。私にくれないかな?」
すみれは愛しそうに、俺の手を自分の頬に寄せ「お願い」と、頬を赤らめてはにかむ。
「…ッ!」
ずるい
すみれは、ズルいさ
そんな風に言われたら、断れない
(すみれのそーゆーとこ、キライさ)
その損得感情のない、計算的ではない。その素直な言動が、本当にキライだ。
(いつもそうやって、俺を惑わす)
ああ、もう。本当に嫌になる。
そんなすみれを大好きな自分が、本当に嫌さ
(惚れた弱みさね…)
俺は小さくため息をついた