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49番目のあなた【D.Gray-man】

第12章 【番外編・SS】Valentine 2021



「ねえ、ディックってば!」

(……ハッ!)

すみれの張り上げた声で、我に返る。


「あ、なに?」

「もうっ、どうしたの?私の話聞いてる?」

「えーと、何だっけ?」


完全に自分の世界に入り込んでいたため、すみれの話を聞いていなかった。


「だからっ!そのチョコレート」

「あ、コレさ?………失敗作さ」

俺は持っているチョコレートを、サッと自分の背後に隠す。


「私にちょーだい?」

「は?いやいやっ、それは、」

「だって、私のために作ってくれたんでしょう?」


違うの?と、すみれは笑顔で小さく首を傾げる。可愛いな…じゃねぇさ、俺!!


「そう…だったけど、こんなもん渡せないさ!」

「どうして?」

「見た目悪ぃし」

「可愛いチョコだったよ」

「腹壊すかも?」

「壊さないよ、壊しても自己責任!それに、」


いつも控え目なすみれが、今日はぐいぐい押してくるではないか。俺の方がタジタジになってしまう。


「怪我するくらい、一生懸命作ってくれたんでしょ?」

「……バレた?」

「バレバレだよ!そんな絆創膏だらけの手じゃ」

すみれは俺の片腕を引っ張り、絆創膏だらけの手を、すみれの綺麗な両手で優しく包み込んでくれた。


「買ってくれたプレゼントだって、すっごく嬉しいよ?だけど、手作りってあんまり貰うことないから…やっぱり、嬉しいよね」

すみれは俺のボロボロな手を、慈しむように擦ってくれる。


「ディックが私のために作ってくれたって思うだけで、本当に嬉しいの」

冷え症なのだろうか。すみれの手は俺より冷たいのに、じんわりと俺の手を、心を温める。


「だから、そのチョコ。私にくれないかな?」

すみれは愛しそうに、俺の手を自分の頬に寄せ「お願い」と、頬を赤らめてはにかむ。


「…ッ!」


ずるい


すみれは、ズルいさ
そんな風に言われたら、断れない


(すみれのそーゆーとこ、キライさ)


その損得感情のない、計算的ではない。その素直な言動が、本当にキライだ。


(いつもそうやって、俺を惑わす)


ああ、もう。本当に嫌になる。
そんなすみれを大好きな自分が、本当に嫌さ


(惚れた弱みさね…)

俺は小さくため息をついた
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