第12章 【番外編・SS】Valentine 2021
「美味しくねぇかもしんねーけど…ハッピーバレンタイン、さ。」
俺は観念したかのように、背後に隠していたチョコレートをすみれにを差し出した。
「わぁ、ありがとうっ!…えへへ、嬉しいなあ♪」
すみれは花が咲いたかのように、ぱぁっと嬉しそうに笑う。
そんな笑顔を見れただけで「やっぱ作ってよかった」なんて思ってしまう俺は、すみれに関して相当チョロい奴だと思う。
「食べでもいい?」
「味見したからへーきだと思うけど、ホント腹壊しても知らねーかん…「いただきまーすっ!」」
俺の話を最後まで聞きもせず、すみれは俺のトリュフをパクっと1つ食べた。
「…うん!」
「………どお?」
「うん、美味しいっ」
「良かったさ!!……手作りって、大変なんだな」
「え?」
「すみれから貰ったマフラー、嬉しくてさ。だから俺も手作りしてみたけど、全然上手くできなくて」
「…」
すみれは静かに俺の話に耳を傾けてくれる。
「マフラーなんて、ひと目編んでも数ミリだろ?それを1メートル以上編むなんて気が遠い作業さ」
すみれがくれたマフラーは、毎日大切に使っている。俺は首に巻いてるそれに、優しく触れる。
「尚更、大切にしなきゃなって思ったんさ」
「……ご馳走さま」
「へ、もう食わんの?」
「…食べられないや」
「げっ!やっぱマズかった?!もしかして、腹壊したんじゃ…!!!」
「えぇ?!違うよ!……勿体なくて」
「は?」
「全部食べちゃいたいけど、勿体なくて」
すみれを見れば。頬と耳がほんのり火照った色をしていて
「ディック。チョコ、ありがとね」
「…おう」
「今までで1番、嬉しいバレンタインだよ」
照れを隠すように、はにかんで笑うすみれがどうしようもなく可愛くって、
ああ、大好きだなって。
「大変だったけど、作ってよかったさ」
また作ろうと思ってしまう俺は、すみれに関して世界一チョロい男さ。
俺の作ったモノで、すみれが幸せそうに笑ってくれるなら、こんな幸せな事はないさ。
(こちらこそ、ありがとさ)
*
「…ところで、その高そうなチョコはどうしたんさ?」
「これ?叔母さんがくれたの!」
な ん だ よ !!
(心配して損したさっ!!)