第12章 【番外編・SS】Valentine 2021
バレンタインデー、当日。
俺はラッピングされた手作りトリュフを片手に、すみれの屋敷を訪れた。
「すみれ、どんな反応すっかな〜♪」
すみれの反応なんて分かりきっているのに、わくわくした気持ちでいっぱいになる。
年明けから毎日のように顔を合わせているのに、今日は胸がどきどきしている。
(やっぱ、こうゆうイベントは特別なんかな…)
特別なのは、すみれだからこそ。
俺は鼻歌交じりですみれの元へ向かう。いつもと同じ景色なのに、今日は少し色鮮やかに見えた。
いつも同じ場所で待っていてくれるすみれも、今日はいつもより増して可愛く見えてしまい、
「待ったさ?」
「あ、ディック!今準備してたとこ!」
俺だけが、緊張している。いつも通りにできるだろうか。
「コレさ!試しに作っ……」
「チョコレート?」
俺は簡易テーブルの“それ”を見て、動きを止めてしまった。
簡易テーブルにあった“それ”は、宝石のように輝くチョコレート達だった。
「…」
「ディック?」
つやつやなチョコレートでコーティングされていたり、白やピンク等のチョコレートだったり。
ましてや金や銀のトッピングで豪華にデコレーションされていた。
「あ、そのチョコは貰い物で…
ねぇ、ディックの持ってるのは、作ったの?」
そのチョコレート達を見てしまった今、俺の作ったチョコレートなんて。泥団子のように見えてしまって。
「…いやっ、何でもないさ!」
雲泥の差、なんてものじゃなくて。
きらびやかな箱に収まった相応なチョコレートの隣に、お世辞でも綺麗なラッピングとはいえない俺の泥団子チョコレートを並べるのは、
恥ずかしくて、情けなくなってしまった。
(…それに、あれは)
チラッと見えてしまった、メッセージカード。
(きっと、すみれのことが本命なんさね…)
自分のチョコレートも、本命にあげるものなのに。こうも違ってしまうのか。
メッセージカードをすみれに送ってきた男は、自由に想いを伝えることができるのだろう。そんな当たり前の事を、俺は出来ない。
「…っ」
名前も顔も知らない相手に、ひどく嫉妬した。