第12章 【番外編・SS】Valentine 2021
「うへぇっ?!ゲホゲホ、ゲッホ!!」
ココアパウダーが煙のようにもくもくと舞い上がり、そこら中を茶色に変えてしまった。
「な、なんとか出来上がったさ!」
歪な丸い形のトリュフには変わりないが、パウダー効果だろうか。なんとなくそれっぽく見える気がした。
「…でも、あんまり美味そうには見えないさね」
こんなに手間暇かけて、数時間かけて作ったのに。たったこれだけの量しか出来ねぇの?!
レシピ通り作ったけど、写真とちがくね?
てか、レシピには“簡単”って書かれてるけど!ちっとも簡単じゃねーさ!!
「お菓子づくりって、大変なんだな」
すみれがハロウィンで作ってくれたお菓子たちを思い出す。それはチョコレートやマフィン等、何種類にも及んでいた。
「ひとつひとつ、レシピ違うよな…」
どれだけの手間暇をかけて作ってくれたのだろう。
「もっと感謝して食わなきゃ、いけなかったさね」
お菓子を作ってみて、初めて大変さを知る。作るのも大変だが、その前後にある準備と片付けも含めたら…
「お菓子作りって、コスパ最悪じゃんか」
1番形が小さくて1番形が歪なトリュフをひとつ摘み、ディックはひょいと口に放り込んだ。
「…っん!見た目は悪ぃけど、味はなかなか」
美味しいではないか。
すみれが食べたら、どんな反応するだろう。
ーーー『え!?ディックが作ったの?!』
ーーー『うんうん、すごく美味しいよ!』
容易にすみれの笑顔や反応が想像出来てしまい、思わず頬が緩む。
「なんじゃ、さっきから独りで騒ぎおって」
ひょこっと、じじいが俺が作ったトリュフを覗き込む。
「……いんや、ちょっと作ってみただけさ」
俺は冷静に返事をするも、次の瞬間
「ほう、どれどれ」
パクっ
じじいがトリュフをひとつ、口に放り込んだではないか!
「んなっ、何すんさ!?よりによって1番形がキレーなヤツっ!!」
じじいを捕まえようと飛びかかるも、ヒラリとかわされてしまった。
「なんじゃ?ただ作ってみただけだろう?」
「う゛」
「気になる子にでも、あげるつもりだったかのぅ〜〜〜」
「う、うるせーっ!!」
ポーーーーイっ
じじいに取っ組み合いを挑むも、俺は呆気なく外へ放り出されてしまった。