第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
「…遅くなって、ごめんな?」
聞き慣れた恋しい人の声に、すみれは恐る恐る顔を上げる。
「…ディック?」
「おう」
「ディック…っ!!」
なぜ会いに来てくれなかったのか、とか。
なぜ書き置きだけ残して行ってしまったのか、とか。
聞きたい事は山程あったはずなのに。
いざ、ディックを目の前にすると、何も言葉が出せなかった。
「…ッ!」
ディックを見て、思わず口に手を当ててしまった。
何故なら、ディックは普段の子息の格好ではなく、旅人のような大きなマントに、履き慣れた革ブーツ。
マントの裾に焼き焦げたような跡や穴があり、服は所々破れ煤まみれ。頬には大きなガーゼが貼られていた。
すみれが想像していた“事業”ではないことは、明白だった。
何処に行っていたの?
何をしていたの?
ーーーーそんなにボロボロになるほど、何か危ないことがあったの?
でも、それは二人の暗黙の了解で。
聞いちゃいけない事なんだろうと察する。
「…ッ」
何て言葉を発するべきなのか、何か発しようとするも、すみれの唇は震えるばかりで。
また、同時に自分が恥ずかしくなった。
(ディックがこんなにボロボロになっていた間、私が悩んでいた事って…)
自分よがりの、恋煩いの事ばかり。
「(恥ずかしいな、私)…」
すみれは自然と下を向いてしまい、ディックと目線が合わなくなる。何も言えないすみれを気遣ってか、ディックは慌てて話だした。
「く…Xmas頃には帰って来れると思ったんだけど、手こずっちまってさ!」
「…そうなの?」
すみれはディックを見るため、顔を上げる。
「ちょいヘマしちまって、この有様さ!」
「うん…」
何してたとか、どうしてこうなってしまったとか。理由は教えてくれないんだね
「もしかして、俺臭ぇ?!こんなに汚れちまってるし…」
やべぇ!と、ディックは慌てたするフリをする。
「そんなこと…、」
分かってるよ。
空元気なことくらい、無理してることくらい。わかるよ
「こんな時間に来て悪かったさ〜!でも、すみれに会えて元気出たさっ♪」
ははは!っと、いつもの調子でディックはおちゃらけて見せるも、すみれの目にはどこか痛々しいディックが映る。