第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
※すみれ視点
Xmasが過ぎ、年末年始も過ぎ、
マフラーを編み終わっても、ディックは私の前に姿を現さなかった。
「寒い、なあ…」
書庫室の窓を開け放ち、真新しい雪が積もったばかりの、銀色の世界を見渡す。闇夜だからこそ、雪の白さがくっきりと際立ち美しい。
気づけば、部屋より書個室で過ごすことが多くなってしまった。
ディックはあのまま、新しい街や国で事業を始めたのかもしれない。
別れを言えないまま、ディックとの別れが訪れてしまったのではないかと、すみれは思うようになっていた。
「マフラー、せっかく編んたのになあ」
綺麗にラッピングまでしたが、無駄だったようだ。
すみれはビリビリと無造作に包装紙を破き、自分が編んだ白いマフラーを巻いてみた。
うんうん、すっごく暖かい。
暖かい、のに
「寒い、なあ…っ」
ディックは同じ土地に留まっていない事なんて、出会った当初から知っていたことではないか。
いずれこうなる事は分かっていた、のに。
「手紙1つ、出す事すら出来ない…」
ディックの事を、知っているようで何も知らなかった。
どうしたら会えるのかも、どこに居るのかも、手紙1つ出す事すら出来ない現状を、今更になって思い知る。
叔父様も叔母様も、ディックの事を話しても分からないと首を振るばかりだった。
この現状を打破する方法が、すみれには存在しなかった。
「受け身でいたから、こうなっちゃったのかな」
いつもディックから会いに来てくれて、勉強や様々な事を教えてくれて、私から行動を起こしたことはあっただろうか。
ディックに何か与えてあげた事は、あっただろうか。
「なーんにも、なかったな」
思わず、自嘲してしまう。
この現状を作り上げたのは、全て私自身が問題ではないか。
「せめて、お礼くらい言いたかったな…」
色んな事を教えてくれて、ありがとう。
楽しい時間をありがとう。
恋する切なさも、幸せも
教えてくれてありがとうって、
「今となっては、後の祭りだ」
すみれは窓枠に腕を付き、そして顔を伏せてしまった。
「……こんなの、嫌だ」
ディックに会いたい。
会ったら、ちゃんとーーーーーー
「窓は閉めろって、言っただろ?」
ディックの幻聴が聞こえた気がした。