第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
「…僕っ、し、死にたくないよぉっ」
「…ッ」
子どもは武器を手放し、頭を抱えて蹲ってしまった。恐怖に怯え、逃げ出すことも出来ずぶるぶると震えるばかりだった。
(少年兵、か)
なんで、俺よりもこんな幼い子どもが。
防護服どころか兵隊服でもなく、ヘルメットもなく。その辺にいる子どもの格好で、不釣合な銃を持っていた。
なんでたよ、
(なんで、こんな子どもが…っ)
ディックはふと子どもの周囲を見渡し、絶句する。
そこには子ども、女、男、老人、兵士達の、もう動かなくなった死体だらけであった。
「…げろ、」
「えっ…?」
「早く、逃げろ」
「…っ、」
子どもはディックに言われた通り、銃を手放したまま走り去って行った。
この戦火の中、無事に逃げおおせられるだろうか。子どもの安否を祈らずにはいられなかった。
「ほんっとに…ッ」
人間は、本当に愚かだ。
言語があるにもか関わらず同胞を殺し、奪い合う。力のある人間は益々力をつけ、弱者は奪われる一方だ。
(…あの光景にも、腹が立つ)
記録のため、この戦争を起こした上層部の奴らと顔を合わせた。彼らは上等な兵服やアクセサリー等を身に着け、高級料理と酒を飲食しながら戦場へ指示を下す。
『この兵隊達は囮にしろ』
『替わりはいくらでもいる』
『捨て駒だ。』
(…そのお前らの服も、食べ物も、酒も。全てその“捨て駒”から巻き上げた税金だろうッ?!)
ぐっ…と、思わず拳に力が入る。
戦争を引き起こしたこの国は、決して裕福ではない。人々は崩れかけた建物に住み、街を行き交う住民は痩せ細り活気はない。一目瞭然だった。
(人間、力を持てば皆こうなってしまうのか)
一時は国の為に、人の為に生きていても。
金と名誉に溺れ破滅の道へ歩んでいった奴らを沢山見てきた。
人間は歴史から、何も学ばない。
(さっきの子ども、もう少し裕福な家に生まれていたら…)
きっと、違う人生だったに違いない。与えられた運命を呪うばかりだ。
「……ディック、行くぞ」
「あぁ。」
じじいに呼ばれ、その場を後にする。
記録の為に再び戦場と化した街を駆け巡った。
いつの間にか。
すみれと約束したXmasの時期も、年末年始も。
とっくに過ぎ去っていた。