第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
自分の恋に終止符を打ってから一週間ほど経ち、気づけばあっという間にクリスマスイブだ。
まだ、ディックは現れない。
(もうクリスマスだっての…)
すみれは書庫室の簡易テーブルにこてん、と頭を置く。
暖を取れなかった書庫室は、見違えるようになっていた。テーブルの下には足元を冷やさぬよう暖かみのあるカーペットを敷き、暖房器具が置いてある。
寒い外から来たディックが、暖まれるように。
そして部屋にはすみれの1つ分の椅子しかなかったが、それを2つに。
椅子にはそれぞれ、もふもふした暖かそうなクッションを、背もたれに膝掛けを置いてある。
こんな寒い日に、ディックを外の椅子になんて座らせられない。
外にあるディック専用の椅子は、座る主が長く訪れていないことを強調するかのように、雪が積もり埋まりかけている。
「ホワイトXmasだなあ」
銀色に輝く雪に覆われた世界が、とても美しい。
なのに、こんなに寂しさが募ってしまうのは
「…暇になったから、かなあ」
昨日までずっとXmasパーティー、舞踏会、お茶会続きだったせいだ。たくさんの人に会っていたし、ずっと忙しかった。
勉強も、編み物も、全く手に付けられなかった。
会えないディックを待つ生活にも慣れてしまい、勉強にも以前のように取り組めている。
マフラーの編み進み具合だけが、なかなか進まない。
「…編むの、辞めようかなあ」
Xmasプレゼントにと考えていたのに、まだ半分しか編めていない。
それに恋人ならまだしも、友達(って言っていい関係だよね…?)の分際で、手編みは気持ちが重いだろうか。
「でも、せっかくここまで編んだし」
そもそも、もうXmasには間に合わない。
それなら、自分のために編んでしまおうか。
「とりあえず!編み終わってから、渡すか渡さないか考えればいいよねっ」
すみれはムクッと起き上がり、再び編み物を始める。
編み物なんて久しぶりにしたせいか、楽しいくて仕方ない。無心になって編めるのが楽しい。
少しずつ出来上がっていく様子が、達成感と仕上がりの期待感をどんどん高めていく。
真っ白だけど、少しクリーム色の毛糸。
(ディックに似合いそう)
想像しただけで、にまにまと顔が緩む。