第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
初めからわかっていたことを、何故忘れていたんだろう
ディックはこの地に、ずっと留まっていないことを
ディックが他国を転々としてきた生活の話を、あれほど聞いていたのに
「いつか離れ離れになる」と直接言われたわけではないが、そうなることは互いの暗黙の了解としていたはずだ
それを忘れるくらいディックの言動に浮かれ、恋だのトキメキだのに溺れていた
すみれは両手で顔を覆い、深いため息を吐く
「思いを告げるなんて、しなくて良かった」
まだ、ディックに会えなくて良かった
もし、思いを告げていたらどうなっていたのだろう
期間限定の恋人になれた?
私のために、この地に留まってくれた?
まだ、14歳の少年が
(ディックは、賢明だから…)
きっと後腐れないよう、私の元を去るだろう
そしたら元々期間限定の、あの二人で過ごす穏やかな時間は、もう…
(失いたくない)
まだ、失いたくない
私から終わりになんて、したくない
少しでも長く、ディックと一緒に居たい
(その為に、出来ることは…)
今まで通り、過ごす事
この恋心を封印するだけ
たった、それだけだ
「…後腐れなく去るために、未亡人が好きなのかなあ」
出会ったばかりの頃、ディックはそんな事を言っていた
ふざけてるの?と蔑む目で見てしまったが、あの頃はまだディックの事をよく知らなかったから
(…おちゃらけてるようで賢明だし、熱いとこあるし
優しいもんなあ)
「私がもっと、年上だったら良かったのかなあ」
すみれは部屋に天井を見上げ、吊り下がっているシャンデリアを見つめる
それとも、このシャンデリアのように華やかで、美しく魅力的な女性だったら、何か違ったのだろうか
そんな馬鹿げた事を考える自分に、ふふっと自嘲してしまった
「好きだよ、ディック」
ディックにも、誰にも届かない想いを口にする
これで、この恋はお終い
すみれは自ら終止符を打つのであった
*
「……」
すみれの居る部屋の扉に、ティキは背を預ける
扉越しに聞こえたすみれの切なく、消えてしまいそうな声が耳に残る
“好きだよ、○○…”
名前は聞き取れなかったものの、自分自身ではないことくらい分かる
「やっぱ、キツいわ」
ここにも、終止符を打たれたものが一人