第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
(本当に情けない。自分が恥ずかしい)
涙は枯れ流れなくなったものの、まだ鼻はすんすんと鳴るし、たまにしゃくりあげてしまう。そして目頭がとても熱い。
鏡を見なくてもわかる。
化粧は涙によって流れ落ち、きっと目元は腫れている。こんな顔では、パーティーに戻れないだろう。
(私、とんでもない勘違いしてた……)
夜風にあたって、これっぽっちも冷静になんてなっていなかった。
恋する自分に酔いしれ、何も見えていなかった。
「大丈夫か?」
私の落ち着きを見計らって、ティキが声をかけてくれた。私のくだらない事に巻き込んでしまって、申し訳ない。なるべく平気なフリをする。
「うん、大丈夫」
「……って、んなわけねぇよな」
よいしょっと、とティキはソファーから立ち上がる。そして部屋の扉に向かって歩き出した。
「言ってきてやるよ」
「?、何を?」
「俺とパーティー抜けて、その後送り届けるって。叔母様に。」
「い、いいよ!そんな!まだパーティーは中盤じゃ…」
「そんな顔じゃ、戻れないだろう?」
「ゔ……ティ、ティキはパーティー戻りなよ!皆待ってるよ」
ティキは人気者だ。
子息令嬢にマダム達、皆が首を長くして待っているに違いない。何より、こんな私情に巻き込みたくない。
「…俺も、ちょっとショックなことあってさ。」
「え?」
「すみれを口実に、サボらせてもらうわ」
「そ、そっか…」
「ここで待ってろよ」
いいな?と、ティキはすみれに念を押し部屋を出て行った。
パタンっと扉が閉じ、コツコツコツ…とティキの足音が遠ざかっていくのを確認して、すみれはソファーへ深く座り直した。
(ティキも、何かあったのかな…)
こんなに泣いたのは久しぶりのせいか、頭がズキズキと痛む。それでも思考は冴えていた。
私がこんなに泣いたのは、あの彼に言い寄られたのがショックだったからだろうか。
(…それもあるけど、違う)
それとも、あの彼に一夜だけの関係を求められたから?
(…違う)
助けてくれたのが、ディックだと自分の妄想を疑わなかったから。
ディックに思いを告げて寄り添えるなどと勝手に思い込み、そして現実に目を背けた愚かな自分に絶望したからだ。