第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
すみれはティキが用意してくれた個室の長ソファーに腰をかける。メイドが部屋にティーセットを運び、お茶の給仕をしてくれる
「…」
「ほら、寒かったろ」
ティキがすみれにティーカップを渡す際、「熱いから、気をつけろよ」と声を掛けてくれる
すみれは黙ってティーカップを受け取るも、口をつける気分にはなれなかった
お礼を言わなければいけないのに、喉の奥に何かがつっかえて上手く言葉が出てこなかった
「…」
「…」
「…俺、いない方がいい?」
「!、そっ、そんなこと!」
すみれは慌てて顔を上げる
ティキはテーブルを挟み、反対側の長ソファに腰をかけていたが、すみれと距離を置くように座っていた
あんな事があったからか、ティキが自分と距離を置いて座ってくれたことにすぐ気づく
何故だろう
ティキの優しさに、胸がズキッと痛んだ
「…助けてくれて、ありがとう」
「いや、なんか危なそーだなと思って」
「危なそう?」
「あいつの噂、知らねえの?結構な遊び人というか、泣かされてる女性が多いみたいだぜ」
「えっ、知らなかった」
「…マジで言ってる?ある意味でかなりの有名人だぜ?」
ティキはすみれの反応を見て、怪訝そうに紅茶を口にする。すみれもティキに合わせてようやく紅茶を口にした
温かい紅茶が喉を通り、体がじん…と温まるのがわかった。冷えた心も、ほんの少し解れた気がした
「あたたかい…」
「…ん」
きっと、温かい紅茶のせいだ
「…あったかいね」
「あぁ」
「………うっ」
今更、涙が次から次へ頬をつたい零れ落ちるすみれは静かにただただ、涙を流すだけだった
そんなすみれに、ティキは声をかけるわけでもなく、側に寄ることもなく。長ソファーに足を放り投げ、天井に向かってタバコを蒸した
*
「…キッツ」
すみれに聞こえない声量で、ティキは独り言を呟く。すみれとあの男の間に割り込んだ際のことを思い出す
(明らかに、俺じゃない誰かだと思いこんでたよな)
そして今。すみれが流してる涙が、俺には一切向いてない事もわかる
(俺は眼中にねーってか…)
それでも、側を離れられないのは
(惚れた弱み、だな)
ティキは寂しく、タバコを蒸すしかなかった