第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
「は…離してください!」
「そんな恥ずかしがらなくても」
「そんなんじゃ…!」
すみれは抵抗し腕から抜け出そうとするも、相手の腕はびくともしない。
「僕達はそんな関係じゃないって?なら、今からなればいいじゃないですか。
まあ、一夜で崩れる関係でもいいですけどね」
彼の顔がすみれに近寄り、吐息が耳を掠める。すみれの肌は、ぞわわっと鳥肌が立つ。
気持ち悪い
「いやっ…!」
やだやだやだ、触らないで!
ディック以外、触られたくないッ
「…助けてっ!」
ディックじゃなきゃ、嫌だ
ディックじゃないと、
「ーーーーーーディッ…」
「はい、そこまで」
突如第三者の声がし、すみれは抱擁から開放される。思わず、へたりと座り込んでしまった。
すみれの視界の入らない後方で、二人のやり取りが微かに聞こえた。
(ディックだ…ッ)
ディックが、来てくれた
いつも、困ってる時は助けてくれる
本当に私のヒーローみたい
何より、
(やっと、会えた…!)
恐怖からくる震えと、恐怖から開放された安諸と、やっとディックに会えた嬉しさが入り混じる。
色々な感情が入り乱れ、すみれは自分自身を抱きしめる事しか出来ない。
「大丈夫か?」
「ディッ……!」
ーーーーーーディック!!
「………ティ、キ?」
すみれの目の前にいるのは、ディックではなくティキであった。
「寒いだろ、これ羽織れ」
ティキはタキシードのジャケットを脱ぎ、すみれの肩にかけてやる。
「ほら、立てるか?」
ティキの片手はすみれの手を、もう片方はすみれの脇に手をあて、すみれを立ち上がらせる。
「それじゃ、失礼するよ」
「く…っ」
ティキは彼にニッコリと怖いくらいの営業スマイルを贈り、すみれを連れてバルコニーを後にした。
ティキは近くにいる執事に指示をしているが、すみれの耳に上手く入ってこない。
すみれはティキに身を委ねることしか出来なかった。