第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
「小僧、しっかり見張っとれ」
「……」
俺の哀愁なんぞ、知ったことか。
アイメイクの濃いパンダ…じゃなかった、ブックマンのじじいに指摘される。
おいおい、その鋭い爪を出した黒い獣手は何さっ?!
「………へいへい。見てますよっと」
「何じゃ、その返事は」
「何処行っても戦、戦、戦。
ニンゲンは戦が好きさねえ」
「皮肉な事に…」
「“戦あるとこに歴史は動く”、だろ?」
耳にタコが出来るくらい言い聞かせられた言葉を、じじいが言う前に被せる。
只今、じじいはログの真っ最中。
この秋晴れの、黄金色の美しいススキ野原で戦争が繰り広げられている。この景色が台無しだ。
(ほんと、ニンゲンって奴は…)
遠くに戦車や兵隊達が見える。
遠目なため、正確な数の把握は難しいが、結構大きな規模でドンパチしている。
黒い煙があちこちで上がり、風に乗って音と匂いがやってくる。
銃撃音、爆発音、悲鳴、雄叫び。
爆薬の匂い、植物の焼き焦げた匂い、
そして 死臭。
聞き慣れた音達と、嗅ぎ慣れた匂い。
慣れたところで良い気分ではない。
「こんだけ離れてりゃ、流れ弾もねえだろ」
「バカ者、気を抜くでない」
「へいへ……へーっくしょん!!」
俺は盛大なくしゃみをかましてしまった。
鼻をズビズビ鳴らす。やっぱ、マントだけじゃ寒すぎた。
そんな俺を見て、じじいは何を思ったのか
「…首巻きは、どうした」
「首巻…ストールさね。……無くしたさ」
「ほう、そうかのう」
「………」
なんだか、全てお見通しな気がして俺は黙ってしまった。ハロウィンの日の、すみれとのやり取りを思いだす。
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ハロウィンを楽しみ終え、俺は屋敷まですみれを送り届けた。
『ディック!ストールありがとう』
すみれはストールを外し、俺をに返そうとした。が、俺は受け取りを拒否せざるを得なかった。
ストールから、すみれの香りがした。
見事にすみれの香りが、俺のストールに移ってしまった
(すみれの匂いに惑わされて、絶対集中できなくなるさ…)
好きな女が自分の私物を使ってくれて、素直に嬉しい。だけど、誘惑に弱い俺には刺激が強すぎる。
先程したばかりの、決意が揺らいでしまう