第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
ーーーすみれ、何してっかな。
俺はそんなことを思いながら、秋晴れの空をぼんやり眺める。雲一つない晴天で、空を遮るものは何一つ無い。
そんな空の下は、ススキで一面の野原である。日の光に照らされ、それらは黄金色に輝いている。なんという絶景か。
(…すみれにも、見せてやりたいさ)
見晴らしの良い丘となっている所で、ディックは辺りを見回す。サァーーっと穏やかな風が吹き、ススキの穂同士が掠れ、優しい音が生まれる。
サワワ サワワワーーー…
ここは欧米ではない、異国の地。
欧米の町並みや田舎風景も美しいが、ススキ以外何も無い風景が、こんなにも美しいとは。
ザァッと少し強い風が吹き、ディックのマントを激しくなびかせた。
(晴天とはいえ、さっむ…!)
羽織っているマントを口元まで覆う。もう秋服だけでは耐えられない寒さだ。
欧米も、だいぶ寒くなっただろうか。
ハロウィン以来、この地に赴いている。
だから、すみれに会えていない。
(丁度良かったと言えば、そうなんだけど…)
すみれと少し、距離を置こうと思っていたところだったから。
俺の不注意で、すみれに近づきすぎてしまった。
いずれ、離ればなれになることはわかっているのだから、余計な傷を残すようなことはしたくない。
だから、すみれとは距離を置こうと思った。そんなことを思った直後、異国の地で新たな仕事ーーーログ《記録》が舞い込んできた。
そして今、物理的に距離を置くことになった。このログは一次的なもので、終われば再びすみれに会える。
(すみれに、会いたいさ…)
“すみれと距離を置かなければ”と思っていたのに、このログが一次的なものである事への安堵の方が、今の俺には遥かに勝っていた。
すみれと、まだ一緒に居られる。
いつか訪れる“別れ”については、今は考えたくない。
(すみれに、会いてぇ)
すみれはいつも、俺を待っていてくれる。
だから、“すみれは俺に依存してる”って思ってた。
だけど、違う。
本当に依存してたのは、俺の方だった。
ーーーーーホント、情けないさ。
俺は風が冷たいフリをして、マントを目深に被った。