第2章 奴隷の印
こんなことを言うつもりはなかった。こういう娘を買ってはどこへでも行けと言うのがいつものカラ松のやり方だ。だがこの娘は違った。手放したくないと思ってしまうほどに美しく、どことなく気品を感じる。
「……奴隷は、命令に従うのみです」
思わず彼女の手を取るとビクッと反応を返したが、カラ松がそれ以上なにもせずにいると彼女の体から少し力が抜けた。
「カモーン、レディー」
ウインクするカラ松に拍子抜けしたのか、彼女はカラ松についてきた。
「ホエ、ギルティックじゃないダスか」
「ん?おお、デッカーか」
カラ松たちは自分たちの素性を知られないようにするため、互いの呼び名を決めている。カラ松にいたっては貴族と間違われるほどにいい身なりをしている。
「この娘の手当てを頼みたい」
デカパンは彼女をしげしげと見て、
「ホエー。古傷まではどうにもならな……」
そこまで言って何かに気づいたのか、彼女とカラ松の手を引いて走り出した。
「お、おい!俺まで引っ張るな!」
「何を言ってるダス!ギルティックがいなければ、この娘さんがおびえてしまうダス!何せ男ばかりダスからな!」
「……それもそうだな」
船に戻るとデカパンは彼女に先に体を綺麗にするように言った。
「そんな汚れた状態では、治療も出来ないダス」
確かに彼女はすすだらけの泥だらけで、普通の貴族なら買うのをためらっただろう。その上奴隷ともなれば風呂屋も入れてはくれない。食事しようにも奴隷が一緒だと店に入ることすら出来ないのだ。従って奴隷は外で待たされ、ろくに食事も与えられない。死んだらそのまま捨てられる。それが奴隷なのだ。
戸惑う彼女の手を引いて風呂場へ連れていくカラ松。だが風呂の使い方もわからない彼女に優しく教えてやる。最初はシャワーに驚いたが、カラ松の前で服を脱いでシャワーを浴び出した。奴隷が主人の前で裸になるのは当然だと考えられているからだ。汚れを含んだ水が流れていく。
「…!!」
カラ松は息を飲んだ。彼女の体には何かで切られたような傷や火傷の跡が無数にあった。
「ひどいことをしやがる」
だがそれと同時に、彼女の素顔も現れた。
「おお……!」
ため息が出るほどに美しいと思う一方で、どこかで見たような気もしていたが、どこだったかが思い出せない。やがて綺麗になった彼女は体を拭いて服を着る。