第9章 カラ松の過去
「ハジメ国は処刑した人を海に放り込むわ。私の両親もきっとそうね」
「ああ、それは俺たちが見てた。群衆の手で放り込まれてたよ」
おそ松は拳を握りしめる。今でもそのことを悔いているのだろう。○○は許してくれたが、自分で自分を許すことができないでいる。と、ダヨーンが声を上げた。
「みんな、しっかりつかまってるんだヨーン!デビルエリアに突入ダヨーン!」
このデビルエリアこそが、ハジメ国に他国の者が侵入できにくくしている海域なのだ。あちこちに岩が突き出し、潮が渦を巻いている。
「見て!船の残骸がたくさんある!」
トド松の声に反応して指さす方向を見ると、いくつもの船が残骸となって散らばっていた。座礁して動きが取れなくなったのだろう。
「うわあ!舵を握ったガイコツがいるよ!」
十四松が悲鳴をあげる。
「死してなお舵をとるのか…」
カラ松は帽子を脱いで胸に当てた。海賊流の敬礼だ。この操舵師だけでなく、客として乗っていた人々もここで命を落とした可能性もある。
すると透き通るような歌声が聞こえた。○○だ。○○が讃美歌を歌っているのだ。その歌声はまるでこの海域で命を落とした者たちを、行き場をなくした船を包み込むかのように思えた。見ればさっきまで舵を握り立っていたガイコツは、その手を放しその場に崩れていた。
「自分の役目が終わったことに気づいたんダスな…。ホエ!そうだったダス!思い出したダス!ハジメ国の王家の者は、こういった力を持っていることを!だからハジメ国の者が海に出る時は、必ず王家の者に同行してもらってたんダス!」
「ということは、○○ちゃんがいれば俺たちは無事に抜けられるということか」
チョロ松は感心したように頷く。
讃美歌が終わると同時に不思議なことが起こった。今まで隆起していた岩がその姿を海の中へ沈ませた…いや、海水がその水位を上げたのだ。それと共に散らばっていた船の残骸はガイコツたちと共に海へと還っていった。
「今度その美しい歌声を、シャーザーが眠る場所で歌ってくれないか」
「もちろんよ、カラ松。その場所にも連れて行ってね」
「ああ、プロミスだ」
○○のおかげでデビルエリアから無事に抜けることができたカラ松たちは、小さな島にたどり着いた。地図を見てもデビルエリアに紛れてしまうほどの小島。